サム・ウォルトンの生涯⑦「小さく考える」とはどういうことか?
(前回までの続き)
アメリカ最大の小売チェーンとして君臨しつづけるウォルマートの創業は1962年。
それから22年が経った1984年には売上45億ドル、純利益2億ドル近くという巨大チェーンに成長していました。
この驚異的な成長を実現したのが創業者のサム・ウォルトン。1985年10月には、フォーブズ誌が「全米一の金持ち」として彼の名前を報じました。
この前後から、ウォルトンは一般大衆からの好奇の視線も集めるようになります。
しかし、彼は世間の「大金持ち」イメージからは程遠い人物でした。ベントンビルにマスコミが押しかけると、そこにいたのは古ぼけた小型トラックを運転する男。
ウォルトンに関する有名な逸話が生まれたのも、まさにこのタイミングです。散髪は町の床屋で済ませるなど、大金持ちなのに特に浪費しようとしない。
マスコミは、かえってこのことを面白おかしく掻き立てました。ウォルトンが町の床屋で散髪してもらっている姿が、全米の新聞に掲載されたのです。
以来、世界中から金を無心する電話や手紙が寄せられるなど、晩年のウォルトンは「成功者になったこと」自体の苦労が絶えませんでした。
妻ヘレンをはじめ家族にとっては閉口もいいところで、ウォルトン家では本能的に、家族の個人的な情報については固く口を閉ざすようになりました。
1987年に株式市場が暴落したとき、マスコミは「ウォルトンが5億ドルの損をした」と報じ、インタビューされた彼が「ただの紙切れさ」と答えると、大喜びでそれも記事にしました。
ウォルトンは「ヨットを買いたいとか、島を丸ごと所有したいなどと思ったことは一度もなかった」と回想しています。