【書評】バフェットに学ぶ価値創造経営

「バフェットに学ぶ価値創造経営」という本を読みました。

投資家としてのウォーレン・バフェットだけでなく、コングロマリット経営者としての彼にも焦点を当てた一冊となっています。

本の章立てはシンプルで、次のような感じです。

序章 そうだ、バフェットに聞いてみよう
1. 「二刀流」企業価値創造経営 企業価値創造は結果でなく目的である
2. 「二刀流」財務マネジメント 資金配分こそバフェット流企業価値創造の鍵
3. 取締役会の役割 本当に株主の利害を代表できているのか
4. 株主の役割 株主への対応と株主としての行動
終章 バフェット流を実践するチェックリスト

著者の手島直樹さんは小樽商科大学ビジネススクールの准教授で、1996年にアクセンチュアに入社したのち、2001年より日産自動車の財務部やIR部をへて2009年に独立、という経歴の持ち主です。

著者は「企業は本業からキャッシュフローを生み出すことに集中すべき」と考えており、必ずしもM&A戦略を奨励するわけではないようです。

そんな手島氏がバフェットに関心を持ったのは、バフェットが「経営者」「投資家」という相反する仕事を掛け持ちする「二刀流」の人物だから。

しかも、それでいて時価総額が世界でトップ10に入るほど巨大な企業体を1代で築き上げたからです(バークシャー・ハサウェイ自体は1800年代からありますが)。

バフェットについて語られた本は多く存在しますが、ほとんどは「投資家」としての側面だけに焦点を当てられており、「経営者」としての面にもスポットライトを当ててみよう、という考えでまとめられた本になっています。


読んでみてかなり学べる部分があったので、今回もまとめておきたいと思います。

バフェットのDCFに関する考え方

昨今、企業の価値を評価する際には「DCF(割引キャッシュフロー)法」と呼ばれる考え方が主流になっています。

それは、その企業が将来稼ぎ出すフリー・キャッシュフローを、リスクとして考えられる不確実性を現在価値に割り引いて算出したものが企業価値である、とするもの。


将来稼ぎ出すことが期待できるフリー・キャッシュフローが大きくなれば企業価値は増大するし、その確実性が高いほどリスクとして割り引く分も小さくなるため、企業価値は大きくなります。

DCF法自体は極めてシンプルな考え方ですが、そもそも論として「将来のキャッシュフローや割引率を正確に推定することが極めて難しい」という決定的な弱点があります。

正確に予測することなど、ほぼ不可能と言っていいでしょう。そうすると、予測が無意味なものとなってしまう危険性があります。

バフェットはその問題を次のようなアプローチで克服しているといいます。

もともと、ウォーレン・バフェットは未来予測に対して極めて謙虚な姿勢を持っています。

不確実性が大きいテクノロジー企業にはほとんど投資してこなかったのは有名ですし、「自分が理解できる」シンプルな事業でなければ投資しません。

そのため、企業の成長性というよりもすでに確立したブランドやビジネスモデルなどの競合優位性に対して評価し、現在の延長線上として適切なタイミングで投資する、という姿勢を取っています。

また、バフェットの師であるベンジャミン・グレアムが提唱した「安全域」の考え方も活用しています。

「安全域」とは、企業の内在価値よりも現在の時価総額がかなり小さい場合、企業の株価がそれ以上下がる可能性は小さく、それだけ安全である、という考え方です。

だから、将来のフリーキャッシュフローを正確に予測するのではなく、可能性の幅を考慮して価値を計算する、というのはかなり腹落ちできる考え方でした。

競合優位性に関する考え方

前述のように、ウォーレン・バフェットは「不朽の競合優位性」があるかどうかを投資先選定の大きなポイントにしています。

どうしてそれが重要かというと、それが売上以上に”利益率”を維持できるかどうかに大きく関わってくるからです。

参入障壁の小さいコモディティビジネスにおいては、企業は競争力のある水準にまでコストを下げなくてはなりません。価格競争におちいってしまうと、一般的に大きな利益率を維持することは難しくなります。

バフェットは利益率を維持する「不朽の競合優位性」を敵から城を防御する「堀」に例えます。

そして、その際たるものが「ブランド」であるとしています。

安く仕入れたコモディティに、自社ブランドという付加価値をつけて売ることができれば、そのブランド価値が毀損されない限りは利益を享受することができます。

そして、その「堀」を築くためにはブランド力やコスト競争力を高めるために長期的視点で行動するしかないと言います。

企業価値を高める財務管理とコーポレート・ガバナンス

最後に、財務マネジメントとコーポレートガバナンスに関する考え方です。

ご存知の方も多いと思いますが、バフェットが経営するバークシャー・ハサウェイは1967年以来、一度も株主に配当金を支払っていません。

これは上場企業としては異例中の異例だと思いますが、それというのも目標が「長期的な株主利益」に向いているからです。

バークシャー・ハサウェイの場合、50年以上ほぼ一貫してS&P500などの市場インデックスを上回る成長を見せているために、株主に配当金を返すよりもバークシャーの投資に回す方が結果として得られるリターンが大きくなる、というのです。

バフェットは、企業にとって最高の資金調達手段は「自社事業の営業キャッシュフロー」であり、真に良い事業は、借り入れをする必要がほとんどないとしています。

そのため、ROEを重視するものの、ROEを上げるために自己資本比率を下げる(=借入金を増やしてレバレッジ比率を上げる)という財務施策には否定的のようです。


特に、バークシャーにとっては現金は市場がパニックにおちいった時の「ノアの箱舟」であり、常に200億ドル以上の現金及び現金同等物を保持することを方針としています。

そうすることで、2008年のサブプライムショックの時にも非常に有利な条件でゴールドマンサックスへの投資を行うことができました。


また、バフェットは新たな株式発行や株式分割には極めて慎重な姿勢をとっています。

それは、株式発行が一株あたりの内在価値を薄め、既存株主の価値を毀損するからであり、株主分割は一部の短期的な株主を誘導しかねないからだと言います。

バークシャーは企業として「株主を選ぶ」という姿勢を明確にしており、少なくとも5年以上は保有するつもりがなければ同社を保有するべきでない、としています。


そして、コーポレートガバナンスにおいては同社の取締役選定の考え方が特徴的だと感じました。

一般的には取締役会において、取締役や外部取締役の「独立性」が重要であるとされていますが、高額な報酬のためにそれが十分に達成されていないと言います。

ある取締役の年間報酬の2割以上を支払ってくれるCEOにわざわざ反対することをいうのは現実的ではない、という理屈のようです。

そのため、バークシャーでは取締役に対する報酬を原則としてわずか数十万円しか支払っていません。

マイクロソフト創業者のビルゲイツもバークシャーの社外取締役として得る報酬はわずか3000ドル。

これは異常と言えるほどに低い水準ですが、どうしてこれでも優秀な人材が集まるかというと、全ての取締役がバークシャー・ハサウェイの大株主だからのようです。


拍子抜けするほどシンプルな解決策ですが、同社の「株主至上主義」とも言える経営スタイルを如実に表していると言えます。

連載シリーズ (全13回)

ウォーレン・バフェット特集