量子コンピューター関連銘柄:異分野7社が挑む次世代技術の核心

三菱ケミカルグループ

量子コンピュータは、従来のコンピュータでは解決困難な複雑な問題を解き明かす可能性を秘め、材料科学、創薬、金融、物流など多岐にわたる分野での活用が期待されています。
世界各国で国家プロジェクトが推進され、巨大IT企業からスタートアップまでが技術開発競争を繰り広げる中、日本国内でも産学官連携による研究開発が加速しています。

実用化への道のりはまだ長く、量子ビットの集積化や誤り訂正技術の確立など多くの課題が存在しますが、アニーリングマシンなど一部の方式では実用事例も出始めています。

本記事では、通信、ICT、化学、精密機械といった異なる分野から、独自の強みを活かして量子技術の社会実装に挑む国内企業7社の取り組みを紹介します。

“IOWN構想”と光技術で次世代情報処理基盤を研究開発「日本電信電話」

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日本電信電話(NTT)は、総合ICT事業、地域通信事業、グローバル・ソリューション事業、その他の4つのセグメントで事業を展開し、NTTドコモなどを傘下に持つ企業グループです。
将来のコミュニケーション基盤として「IOWN」構想を掲げ、光技術を基盤とした大容量伝送、低遅延、低消費電力を特徴とする情報処理基盤の実現に向けた研究開発を推進しています。

NTTの次世代戦略の一つである「IOWN」構想では、ネットワークから端末まで光ベースの技術を導入する「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」の実現を目指しています。
また、NTTは光量子コンピュータに関する研究開発も進めており、光技術は量子技術の基盤要素の一つです。
2025年1月には、東京大学と共同で光量子もつれの生成・観測速度向上に関する成果を発表しています。

NTTが推進するIOWN構想、特に光技術分野の研究開発は、将来的に量子ビットの安定化や量子通信といった量子技術関連の発展に寄与する可能性が考えられます。
また、光電融合デバイスや超低遅延ネットワークといった技術要素は、量子コンピュータの性能向上や、創薬、金融など多岐にわたる分野での応用、社会実装に影響を与える可能性があります。

一方で、IOWN構想や量子コンピュータ関連技術の研究開発は大規模であり、その実現には長期的な投資、国際的な標準化活動、広範なエコシステムの構築などが必要とされます。
技術革新のスピードやグローバルな開発競争への対応も、事業を進める上での考慮事項です。

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AI・量子共通ビジネスプラットフォーム開発の推進「KDDI」

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KDDI株式会社(以下、KDDI)は、電気通信事業を核に金融、エネルギー、DX支援など多角的なサービスを展開する企業です。
個人向けには「au」ブランド等で、法人向けには「Telehouse」ブランドのデータセンターやクラウドサービスなどを提供し、通信技術を基盤とした持続的成長を目指しています。

量子コンピューター分野では、AIと量子計算をつなぐ「AI・量子共通ビジネスプラットフォーム」開発を推進しています。
KDDIは、量子技術の早期育成と社会実装を目指しており、株式会社JijやQunaSys株式会社、早稲田大学などとAI・量子共通ビジネスプラットフォーム開発に関するパートナーシップを締結しています。
この取り組みにおいて、KDDIとKDDI総合研究所は通信分野のユースケース探索やGPU基盤提供を担い、事業化を図っています。

現時点では研究開発とユースケース探索が中心であり、KDDIが量子コンピューター市場で確固たる地位を築くには時間を要する見込みです。
しかしながら、同社が持つ強力な通信インフラと、AI・量子共通ビジネスプラットフォームを通じたエコシステム形成は、将来的に大きな可能性を秘めていると考えられます。

一方、量子コンピューターの分野では、実用的なユースケースの開拓に業界全体として課題があり、大規模な量子ビットや量子チップの実現方法も確立されていないなど、技術は発展途上であることが示唆されています。

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量子インスパイアードコンピューティングの活用「富士通」

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富士通株式会社は、1935年設立の総合ICT企業です。
「テクノロジーソリューション」を核に、また社会課題解決と持続可能な成長を目指すグローバルソリューション「Fujitsu Uvance」を中核にDXを推進しています。

富士通は、量子コンピューティングや次世代コンピューターに関連する先進的な技術開発に取り組んでおり、実用的な技術の提供も行っています。
特に、量子現象に着想を得た「量子インスパイアードコンピューティング」技術である「デジタルアニーラ」は、組み合わせ最適化問題に特化し、製造や金融分野などで実用事例を有します。

デジタルアニーラは、複雑な社会課題やビジネス課題に対し、従来のコンピュータでは解き難かった最適解を高速に導き出すことで、具体的な成果を創出しています。
一方、ゲート型量子コンピューターの研究では、材料科学や創薬といった分野での活用を目指し、計算能力の飛躍的向上による新たなイノベーションを追求しています。

富士通の将来性については、実用段階にあるデジタルアニーラの普及と、将来的なブレークスルーが期待される量子コンピューター本体の研究開発という両面から考察することができます。
一方、グローバルな開発競争の激化や研究開発コスト、市場環境の変化といったリスクも踏まえ、着実な社会実装を進められるかが鍵となるでしょう。

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量子アニーリング技術で社会課題解決を目指す「日本電気」

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日本電気株式会社(以下、NEC)は、社会公共、社会基盤、エンタープライズ、ネットワークサービス、グローバルの5つの事業を柱に、システム構築からクラウドサービス、各種機器開発まで幅広く手掛けています。
同社はAIや5G技術を駆使したDX推進により、社会価値の創造を目指しています。

NECは量子コンピューティング分野で、アニーリング方式を中心とした技術開発を進めているとされます。
疑似量子アニーリングプラットフォーム「NEC Vector Annealing」の提供や国産量子アニーリングマシンの開発を通じ、市場形成への貢献を目指しています。
これらのマシンは、従来困難だった「組み合わせ最適化問題」解決に特化しているのが特徴です。
さらに、長年培ったスーパーコンピューターやAI技術との連携を強化し、将来有望なゲート型量子コンピューターの研究開発にも積極的に取り組んでいます。

同社の量子アニーリングマシンは、複雑化する社会課題やビジネス上の難問に対し、実用的な時間で最適解を導き出すことを目指しており、これによる新たな価値創出への貢献が期待されています。
また、ゲート型量子コンピューターの研究では、創薬や新材料開発といった分野での計算能力の飛躍的向上を目指しており、次世代のイノベーションを追求。

他方で、量子技術そのものは発展の初期段階にあり、誤り耐性を持つ大規模量子ビットの実現をはじめとする多くの技術的ハードルが存在します。
さらに、グローバルレベルでの開発競争や市場の不確実性といったリスクも考慮に入れる必要があります。

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“量子回路圧縮技術”を活用した計算精度の向上「三菱ケミカルグループ」

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三菱ケミカルグループは、機能商品、ケミカルズ、産業ガス、ファーマといった多岐にわたる事業領域を持つ、日本を代表する総合化学メーカーです。
同社は、「KAITEKI」(人、社会、そして地球の心地よさが継続する状態)の実現を通じ企業価値を持続的に向上させることを目指し、幅広い産業分野に素材やソリューションを供給しています。

同社グループは、研究開発における計算科学やAI、IoTといったデジタル技術の活用を推進し、競争力の維持・獲得を目指しています。
また、半導体関連材料をはじめとするデジタル分野にも注力し、社会の高度情報化を支える基盤技術の開発に取り組んでいます。

量子コンピューティング技術の活用にも注力しており、デロイト トーマツ、Classiq Technologiesと連携し、材料開発分野での早期実用化に向けた実証実験を進めています。
この実証実験では、材料探索研究に用いられる量子近似最適化アルゴリズム(QAOA)と量子回路圧縮技術を組み合わせることで、計算精度の向上につながる可能性が示されています。
量子コンピューティングの社会実装において、計算効率の改善や量子回路圧縮といった技術開発は重要な要素と考えられます。

同社グループによるこれらの先進技術への取り組みは、自社の素材開発や生産計画の最適化に留まらず、広範な社会課題解決への貢献も視野に入れたものと見られます。
一方で、新技術の実用化と普及には継続的な研究開発投資や市場ニーズへの的確な対応が求められ、化学業界特有の市況変動やグローバルな競争といった事業リスクへの対応も引き続き重要となります。

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“超広帯域量子もつれ光源”など量子技術への取り組み「島津製作所」

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株式会社島津製作所は1875年の創業以来、分析・計測機器、医用機器、航空機器、産業機器を主要事業として、日本の科学技術の発展を支えてきました。
長年にわたり培われた精密測定技術や分析技術を強みに、基礎研究から産業応用、医療現場まで多岐にわたる分野で社会の進歩に貢献しています。

同社の精密計測技術、とりわけ高度な分光技術や光学技術は、量子技術開発の基盤となることが期待されています。
これらの技術は、微弱な量子状態の測定などを可能にすることから、量子コンピューターや高精度な量子計測・センシングといった革新的な技術分野の進展への貢献が考えられます。

具体的な成果の一つとして、京都大学との共同研究により開発に成功した「超広帯域量子もつれ光源」が挙げられます。
この光源を用いた量子赤外分光は、物質や分子の鑑別に利用される赤外分光装置の小型化・高感度化に貢献する技術として、高精度な量子計測・センシング技術への応用が期待されています。
同社は、本技術の活用により、より幅広い用途で利用可能な量子赤外分光システムの実現を目指しています。

量子技術分野でのさらなる貢献と成長を目指す上で、戦略的な研究開発投資の継続 や高度専門人材の育成 は重要な要素と考えられます。
超広帯域量子もつれ光源のような革新的技術を核として、量子技術分野でのさらなる貢献と事業拡大が期待されています。
同時に、市場動向の変化に的確に対応していくことが求められるでしょう。

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真空技術で量子コンピュータ製造に貢献「アルバック」

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株式会社アルバックは1952年の設立以来、真空技術を核として多岐にわたる産業分野に貢献してきた総合真空装置メーカーです。
主要事業として、半導体製造装置、フラットパネルディスプレイ(FPD)製造装置、電子部品製造装置に加え、各種コンポーネントや材料、真空ポンプ、計測機器などを国内外に提供しています。

アルバックは量子コンピューター本体を直接開発していませんが、量子コンピューターシステムの運用において重要な役割を担っています。
同社の核となる高度な真空技術は、量子コンピュータの安定動作に不可欠とされる極低温・高真空環境の構築への貢献が期待されます。

同社は、長年培った基盤技術を応用し、量子コンピュータのような次世代技術の研究開発や実用化に向けた取り組みを進めていると考えられます。
同社の知見が活かされている真空技術に加え、特殊な材料を用いた薄膜形成や、極めて微細な回路パターンの加工といった要求に対しても、同社の装置技術が応用できると考えられます。

アルバックは、半導体、FPD、電子部品、材料など幅広い事業領域で真空技術を展開しており、量子コンピュータ関連では超伝導方式の冷却技術や未来型コンピューティング(スキルミオン)の研究に取り組んでいます。
このような幅広い技術ポートフォリオは、技術的な不確実性のある量子コンピュータ市場の変化に対応する上で、同社の一つの特徴と言えるでしょう。
一方で、市場の成長速度や技術革新のスピードについていくための継続的な研究開発投資、そして先端技術を担う人材の確保・育成は不可欠です。

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