日本が誇る「半導体製造装置」:代表的な銘柄の技術的優位性とは

私たちのデジタル社会に不可欠な半導体。その高度な製造プロセスは、各工程に特化した高性能な「半導体製造装置」によって支えられています。
露光や成膜、洗浄といった前工程から、切断・研削・研磨、そして最終的な品質を保証する検査といった後工程に至るまで、半導体製造のあらゆる段階で重要な役割を担う企業が存在します。
本記事では、世界市場で高い技術力と競争力を有する日本の主要な半導体製造装置メーカー群に焦点を当て、その多様な事業展開と技術に迫ります。
東京エレクトロンは、半導体製造装置(SPE)事業を主力とし、事業全体の大部分を占める一方で、フラットパネルディスプレイ(FPD)製造装置事業も手掛けています。
半導体製造装置分野では、ウェーハに感光材を塗布・現像するコータ/デベロッパ、微細な回路パターンを形成するエッチング装置、薄膜を形成する成膜装置、不純物を除去する洗浄装置など、半導体製造の主要工程を網羅する製品群を提供しています。
同社の強みは、この幅広い製品ポートフォリオと最先端の技術力、そして製品の信頼性にあります。
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特にコータ/デベロッパ市場においては、長年にわたり世界トップクラスのシェアを維持しており、半導体チップの微細化が進む現代において、その技術は不可欠なものとなっています。
エッチング装置や成膜装置においても、大手半導体メーカーの要求に応える開発力を有し競争力を保持しています。また、世界中の主要半導体メーカーとの長期的な関係構築も、同社の特徴の一つです。
東京エレクトロンは、半導体製造の前工程における幅広い製品ポートフォリオを有し、継続的な研究開発投資によって技術的リーダーシップを追求しています。
市場の循環性や特定分野での競争激化といった外部環境の変化には留意が必要です。同社は半導体製造プロセスの重要工程を支える主要企業の一つとして、その技術力と市場での存在感を有しています。
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アドバンテストは1954年に設立され、東京都千代田区に本社を置く企業です。
半導体・部品テストシステム事業を主力とし、スマートフォンや自動車、AIなどに用いられる高性能なSoC(System on Chip)向けテストシステムや、DRAM、NANDフラッシュ、そしてAI向けに需要が拡大しているHBM(High Bandwidth Memory)といった各種メモリデバイスのテストシステムを提供しています。
また、テスト工程を自動化するデバイスハンドラなどのメカトロニクス関連事業も展開しています。
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同社の強みは、AIや高性能コンピューティングの進化に伴い、ますます複雑化・高性能化するSoCや先端メモリに対応したテストソリューションを提供できる高い技術力にあります。これにより、顧客である半導体メーカーの製品開発期間の短縮、最終製品の品質向上、そして量産体制の迅速な立ち上げに大きく貢献しています。
アドバンテストは、半導体検査装置市場において世界トップクラスのプレイヤーとして確固たる地位を築いており、特にメモリテスタの分野では世界をリードする存在です。この背景には、主要な半導体メーカーや後工程専門業者(OSAT)との強固な顧客基盤があります 。
現代の高度な半導体デバイスの品質保証や市場投入までの時間短縮において、アドバンテストの技術は重要な役割を担っています。
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SCREENホールディングスは、半導体製造装置事業を主力として展開。他にも、グラフィックアーツ機器やディスプレー製造装置など多岐にわたる事業を展開しています。
半導体製造装置分野では、特にウェーハ洗浄装置が中核であり、ウェーハを一枚ずつ処理する枚葉式と、複数枚を同時に処理するバッチ式の双方を提供しています。また、特定の市場向けのコータ/デベロッパや計測・検査装置なども手掛けています。
同社の核となる強みは、ウェーハ洗浄装置における高い技術力と幅広い製品ラインナップにあります。
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半導体の製造プロセスでは、ウェーハ表面の汚染を除去する洗浄工程が繰り返し行われます。SCREENホールディングスは、独自のナノレベルの洗浄技術により、高いパーティクル除去性能とウェーハへのダメージを抑えた処理を実現し、顧客である半導体メーカーの生産性向上に貢献しています。
ウェーハ洗浄装置市場においては世界トップクラスのシェアを誇り、特に最先端のロジック半導体やメモリ半導体向けの枚葉式洗浄装置で高い競争力を有しています。顧客の特定のニーズに合わせたカスタマイズ能力も、同社が市場で評価される理由の一つです。
ディスコは、精密加工技術のリーディングカンパニーです。
同社は「Kiru(切る)・Kezuru(削る)・Migaku(磨く)」という独自のコア技術を基盤に、半導体や電子部品の製造に不可欠な精密加工装置と精密加工ツールの開発・製造・販売、そして関連サービスを一貫して提供しています。
主力製品には、シリコンウェーハなどを個々のチップに精密に切断するダイシングソー、ウェーハを薄く削るグラインダ、そしてウェーハ表面を平坦かつ鏡のように磨き上げるポリッシャがあります。
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特にダイシングソーとグラインダの分野では、世界でもトップクラスのシェアを維持しており、その技術力は業界内でデファクトスタンダードとも評されるほどです。
これらの装置に加え、ダイシングブレード(砥石)などの精密加工ツールも自社で開発・製造しており、装置とツールを組み合わせたソリューションの提供も行っています。
ディスコの製品は高い加工精度を誇り、半導体の薄型化、小型化、そして高集積化といった技術進化を支えています。
レーザーテックは、神奈川県横浜市に本社を置き、光応用技術を専門とする企業です。
主力事業は半導体関連装置の開発・製造・販売であり、特に最先端半導体製造に不可欠なEUV(極端紫外線)リソグラフィ技術に関連する検査装置で世界的に高い技術力を有しています。
同社は「世の中にないものをつくり、世の中のためになるものをつくる」という経営理念を掲げ、ニッチな市場において高いシェアを目指す戦略を追求しています。
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その象徴的な製品が、EUVリソグラフィに用いられるフォトマスクの原版であるマスクブランクスの欠陥を検出する「EUVマスクブランクス検査装置」。
この装置は、現在世界で唯一レーザーテックだけが製品化に成功しており、最先端半導体の量産プロセスにおいて地位を築いています。この技術的優位性は、同社の独創性と先進性を示しています。
EUVリソグラフィ技術は、現代の高性能半導体チップ製造における基幹技術であり、レーザーテックの検査装置はそのエコシステム全体を支える重要な役割を担っています。
> 半導体検査装置で大躍進「レーザーテック」”圧倒的”な開発スピードで更なる成長へ?
KOKUSAI ELECTRICは、半導体製造における成膜プロセス装置の開発、製造、販売、そして保守サービスを主力事業としています。
特に、多数のウェーハを一括で処理するバッチ式の成膜装置に強みを持つことが特徴。同社の事業は装置ビジネスとサービスビジネスで構成されており、全体として半導体製造装置事業の単一セグメントとして展開しています
同社が提供する主な製品には、高品質な絶縁膜や導電膜などを効率的に形成するバッチ式縦型LPCVD(Low Pressure Chemical Vapor Deposition:減圧化学気相成長)装置や、原子一層レベルで膜厚を精密に制御し、均一性の高い薄膜を成膜するバッチ式ALD(Atomic Layer Deposition:原子層堆積)装置があります。
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また、成膜後の膜質を改善するためのトリートメント(改質)装置なども手掛けています。これらの装置は、高い生産性と優れた膜質の均一性を両立させており、顧客である半導体メーカーの生産性向上に貢献しています。
KOKUSAI ELECTRICは、バッチ式熱処理成膜技術において長年にわたる経験と実績を蓄積。このノウハウは、特にメモリデバイス(DRAMやNANDフラッシュメモリ)製造における拡散工程やCVD工程、あるいはロジックデバイスにおける特定の成膜プロセスで強みを発揮しています。
半導体チップの微細化・積層化はますます高度化しており、成膜技術に対する要求も高まり続けています。
主要なメモリメーカーとの長期的な信頼関係も、同社の安定した事業基盤を支える要素の一つと言えるでしょう。バッチ式熱処理成膜装置の分野では、世界でも有数のサプライヤーとして認知されています。
東京精密は1949年に設立され、東京都八王子市に本社を置く精密機器メーカーです。
同社は大きく分けて「半導体製造装置事業」「精密測定機器事業」という二つの事業を展開。その一つが「アクレーテク (ACCRETECH)」ブランドで提供される半導体製造装置事業です。
この事業では、ウェーハプロービングマシン(ウェーハ検査装置)、ダイシングマシン(ウェーハ切断装置)、CMP(化学機械研磨)装置、グラインダ(研削装置)などを手掛けており、売上の過半を占める主力事業となっています。
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同社の半導体製造装置は、長年にわたり精密測定機器事業で培ってきた精密位置決め技術や計測技術を応用している点が特徴です。これにより、高い精度と信頼性を実現しています。
特に、ウェーハ上に形成された個々の半導体チップの電気的特性をウェーハ状態で検査するウェーハプロービングマシンにおいては、高い市場シェアを有し、業界における主要な企業の一つです。
半導体製造の後工程、特に検査、切断、研削といった重要なプロセスをカバーする幅広い製品群と、長年の実績に裏打ちされた「アクレーテク」ブランドの信頼性が、同社の競争力を支えています。
ニコンの事業内容は、カメラなどの映像事業、顕微鏡などを手掛けるヘルスケア事業、光学部品などのコンポーネント事業、そして半導体製造装置やフラットパネルディスプレイ露光装置を開発・製造する精機事業など、多岐にわたります。
同社の半導体露光装置は、長年にわたり培ってきた精密光学技術と精密な位置決め技術を特徴としています。
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製品ラインナップには、先端ロジック半導体の一部やメモリ向けに使用されるArF液浸スキャナー、成熟した製造プロセスで広く用いられるKrFスキャナー。
そしてパワー半導体やMEMS(微小電気機械システム)といった特殊用途向けのi線ステッパーなどがあります。
半導体露光装置市場全体ではASMLが大きな存在感を示していますが、ニコンはArF液浸スキャナー、KrFスキャナー、i線ステッパーといった特定の市場セグメントで事業を継続し、長年にわたる半導体メーカーとの取引実績と、市場に設置された多数の装置群という顧客基盤も有しています。