動画配信サービス銘柄の戦略 ❘ エコシステムやコミュニティの構築で挑む

サイバーエージェント

スマートフォンや高速通信網の普及を背景に、「動画配信サービス」は私たちの生活に不可欠なエンターテインメントとなり、世界的に市場の拡大が続いています。

この成長市場では、魅力的なオリジナルコンテンツへの巨額な投資や、人気IPの獲得競争が日々激化しています。
サブスクリプション型(SVOD)に留まらず、広告付き無料配信(AVOD)や都度課金型(TVOD)など、多様なビジネスモデルが展開され、消費者の選択肢は広がりを見せています。

さらに、AIを活用したレコメンデーション技術の高度化や、クラウドインフラを駆使した安定的な大規模配信は、視聴体験の質を左右する重要な要素です。また、国内外の多数のプレイヤーが参入し、グローバルな競争とローカルコンテンツの充実という両面での取り組みが求められています。

このように絶えず変化し、進化を続ける動画配信サービス業界のトレンドは、関連する企業の事業戦略や将来性に大きな影響を与えています。
今回は、こうした活発な業界の動向を踏まえつつ、その中で事業を展開する企業群の取り組みや課題について見ていきます。

“PlayStation™Network”や”Crunchyroll”を運営「ソニーグループ株式会社」

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1946年設立のソニーグループ株式会社は、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」ことを目指し、ゲーム、音楽、映画など多岐にわたる事業を展開しています。

デジタル配信市場、特に動画配信は同社の注力分野の一つです。
ゲーム&ネットワークサービスにおけるPlayStation™Networkなどのサービスではビデオコンテンツの配信も行っており、動画配信プラットフォームとしての機能も有しています。
また、映画セグメントのメディアネットワークでは、テレビネットワークやDTC(Direct-to-Consumer)配信サービスを運営しています。

アニメ分野では、専門のDTCサービス「Crunchyroll」を200以上の国や地域でSVODAVODなどの形態で提供しています。
ソニーは2021年度にEllation Holdings, Inc.(当時Crunchyroll運営会社)の全持分を取得し、その後Funimationブランドとのサービス統合を進め、ファン向けサービスの拡充を図りました。
同社は、この買収がアニメ専門DTCサービスの収益増に寄与したと報告しています。

映画・テレビ番組制作や、PlayStation®のゲームIPを活用した映像コンテンツ制作(例:「The Last of Us」のテレビシリーズ化など)も進められており、これらの多様なコンテンツ資産が、同社のデジタル配信サービスにおける重要な要素となっています。

一方で、事業運営上のリスクも存在します。
サービス提供における外部ビジネスパートナーへの依存、法規制の変更、およびコンテンツ資産の減損リスクなどが挙げられます。

>>ソニーグループについてもっと詳しくソニーグループの経営方針から考えるエンターテインメントの未来

新しい未来のテレビ”ABEMA”を展開する「株式会社サイバーエージェント」

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株式会社サイバーエージェントは、1998年3月設立のインターネット関連企業であり、メディア、インターネット広告、ゲームなど幅広い事業を展開しています。
この中で、連結子会社の株式会社AbemaTVが運営する動画配信サービス「ABEMA」は、同社のメディア事業における主要なサービスの一つとされています。

ABEMAは「新しい未来のテレビ」をコンセプトに掲げ、オリジナルのドラマ・バラエティ番組に加え、アニメ、スポーツなど多様なジャンルのコンテンツを編成・配信しています。
同社はこれにより、既存のテレビ放送や他の動画配信プラットフォームとの差別化を図り、独自の市場ポジションの構築を目指していると見られます。
株式会社テレビ朝日との共同出資をはじめ、複数の企業との提携も行われています。

同社のメディア事業を含むセグメントでは、事業構造の見直しなどを通じて、近年の業績において損失幅の縮小や利益計上が見られることがあります。
グループ全体のIP事業との連携による相乗効果については、同社も期待を寄せており、これが今後の事業展開にどのように影響するかが注目されます。
さらに、ABEMAへの継続的な投資やIP事業強化の取り組みは、市場の成長機会を捉え、さらなる事業拡大を図るための一環であると同社は説明しています。

一方で、事業運営上のリスクも考慮に入れる必要があります。
ABEMAを運営する子会社については、過去の財務データでは債務超過の状態であった期間が確認できます。
また、動画配信市場は国内外の多数の事業者による競争が継続しており、魅力的なコンテンツの確保・維持に伴うコスト増加や、ユーザーニーズの急速な変化などが、事業上の課題となり得ます。

>>サイバーエージェントについてもっと詳しくサイバーエージェント3Q決算:中核事業は堅調、ABEMAが面白いフェーズに

アプリ一つでオールインワン・エンタメを提供「株式会社U-NEXT HOLDINGS」

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株式会社U-NEXT HOLDINGSは、2009年に設立された前身会社から発展し、2024年4月1日に現在の商号となりました。
現在は持株会社として、コンテンツ配信事業、店舗・施設ソリューション事業、通信・エネルギー事業、金融・不動産・グローバル事業の4つの事業セグメントを展開しています。

その中核事業であるコンテンツ配信は、連結子会社の株式会社U-NEXTが担っています。
同社が提供する映像配信サービス「U-NEXT」は、映画、ドラマ、電子書籍、雑誌など多岐にわたるコンテンツを取り揃え、インターネットを通じて様々なデバイスで視聴・利用できる個人向けサービスです。
同社は、提供ジャンルの幅広さを特徴の一つとしており、他社サービスとの差別化を図る方針であると考えられます。
また、「Paravi」とのサービス統合も行われ、コンテンツ基盤の強化を進めているとされます。

動画配信市場は近年伸長傾向にある一方で、消費者のサービス選択においては集中化の動きも見られると指摘されています。
そのような市場環境において、「U-NEXT」はサービス統合やコンテンツ拡充の取り組みを通じて、会員数の増加を目指しているとされています。

株式会社TBSホールディングスとの資本業務提携は、コンテンツラインアップの強化に繋がる可能性のある取り組みの一つです。
さらに、同社はオリジナルIP開発やスポーツエンタメ配信への注力、そしてホテルや商業施設といった法人・店舗への販売チャネル拡大を、今後の事業展開における重要な戦略として位置づけているようです。

一方で、事業運営上のリスクとしては、海外コンテンツ調達に関連する為替変動の影響を受ける可能性が挙げられています。

楽天エコシステムを活かした顧客の獲得「楽天グループ株式会社」

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楽天グループは、インターネットサービス、フィンテック、モバイルの3つの事業を基軸とするグローバル イノベーション カンパニーです。
その事業構造の中で、「インターネットサービス」セグメントは、デジタルコンテンツサイトの運営等を含み、グローバルに動画配信サービスを展開するVikiなども含まれます。

DXが加速する現代において、SNSや動画配信を含むエンドユーザー向けコンテンツ市場は拡大を続け、モバイル端末の利用シーンも多様化しています。
このような状況下、楽天グループは独自の経済圏「楽天エコシステム」を活用し、クロスセルなどを通じて顧客の利便性向上と契約者獲得を目指す戦略を推進しています。
楽天モバイルの携帯端末から自社のエンターテインメントコンテンツへのアクセスを容易にするなど、モバイル事業とのシナジー創出も試みているようです。

しかしながら、事業運営上のリスクも存在します。
エンターテインメントコンテンツ事業においては、映像等の使用許諾者からの最低保証料などの費用、あるいは海外コンテンツに関する使用権取得に伴う為替変動によるコスト増加の可能性があります。
また、オンラインライブ視聴者数の増加によるトラフィック増が、サーバーへの高負荷やシステム障害を引き起こすリスクも懸念されます。

同社グループは、これらの変化に対応し、多様なサービスと技術革新への取り組みを通じて、事業基盤の強化を図っていく方針を示しています。
同時に、リスク管理体制の整備も継続している状況です。

>>楽天グループについてもっと詳しく楽天グループ:お騒がせ経営者の攻撃的財務は損益分岐点を超えられるか?

”ニコニコ”におけるファンコミュニティの確立「株式会社KADOKAWA」

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株式会社KADOKAWAは、出版、映像、ゲームなど幅広いメディア事業を展開する企業です。
その事業領域の一つにWebサービス事業があり、動画コミュニティサービスの運営を中心に手掛けています。

Webサービス事業の核となるのが、独自の文化を持つ動画プラットフォーム「ニコニコ」です。
このサービスは、ユーザー投稿動画やライブ配信、コメント機能などが特徴で、熱量の高いファンコミュニティが形成されています。

動画配信サービス市場は、国内外からの多くの新規参入があり、非常に競争が激しい環境に置かれています。
そうした中で、同社は形成されているファンコミュニティを基盤として、ペイパービューや広告など、収益源の多様化を図る取り組みを進めているとされます。
また、大規模なユーザー参加型イベントの開催やオンラインサービスとの連携強化を通じて、サービスの魅力を高め、ユーザーの参加機会の拡大を目指している模様です。

同社は「グローバル・メディアミックス with Technology」を基本戦略とし、テクノロジーの活用を重視しています。
グループ内の技術力を結集し、Webサービスの顧客体験向上や、DXを推進する方針を示しています。

しかし、Webサービス事業の運営にはリスクも伴います。
激しい市場競争の中で、ユーザーのニーズを捉えきれず、サービス利用者の増加が見込めない場合、事業に影響が出る可能性があります。
また、過去に発生したサイバー攻撃のような予期せぬ事態が、サービスの安定性や業績に大きな影響を与えるリスクも考慮すべき点です。

>>KADOKAWAについてもっと詳しく業績は絶好調のKADOKAWA 狙うは“グローバル・メディアミックス”

コンテンツ・コミュニティ業への変革を目指す「株式会社WOWOW」

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株式会社WOWOWグループは、BS有料放送と動画配信「WOWOWオンデマンド」を主軸とするメディア・コンテンツ事業を展開しています。

近年、デジタル技術の進化や動画配信サービスの台頭により、市場競争は激化している状況です。
このような環境に対応するため、同社グループは「映像メディアからコンテンツ・コミュニティ業への変革」を目指し、中期経営計画を推進しています。
オンデマンドサービスの拡充やUI/UXの改善に注力する一方、劇場公開やライブビューイング、EC、プロダクションサービスなど、エンターテインメント提供手段の多角化を図り、新たな収益源を模索しているようです。

しかし、激しい競争や特定の人気コンテンツ終了の影響を受け、加入者純減が続いており、過去複数期にわたり会員基盤と売上高は縮小傾向にあります。
中長期的な成長と収益構造転換を実現するため、2025年度からの新しい中期経営計画では、自社配信サービスの開始、コマース・イベント領域の拡大、新規事業開発による新ビジネスモデル構築に取り組む方針です。

事業運営上のリスクとしては、動画配信サービス間の競争激化に加え、物価高騰にともなう消費者の買い控えや消費意欲の減退が挙げられます。
また、衛星や地上設備の不具合、顧客の個人情報に関わるリスクも存在するため、継続的な対策が求められます。