旅行代理店・OTA関連銘柄|需要回復とDX化に挑む日本企業

新型コロナウイルスの影響によって一時的に大きく落ち込んだ旅行需要は、近年ようやく本格的な回復局面を迎えています。
その中で、旅行者のニーズの移り変わりやデジタル化の進展などを受け、旅行代理店業界を取り巻く環境は変化しています。
従来の団体旅行や店頭販売を中心としたビジネスモデルに加え、オンライン予約の普及や個人旅行志向の高まり、さらには現地体験型サービスへの需要の増加により、各旅行会社は事業戦略の見直しを進めています。
また、インバウンド需要の再拡大や観光DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展も業界に新たな機会と課題をもたらしています。
このような市場環境の変化に対応し、持続的な成長を図るためには、各企業がビジネスモデルを変革し、新たなニーズに応えていくことが求められています。
業界には、長年の実績を持つ大手企業や、テクノロジーを強みとする新興企業など、多様なプレーヤーが存在しており、それぞれが独自のアプローチでこの変化に対応しようとしています。
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株式会社エイチ・アイ・エスは1980年に設立され、旅行事業をその核として発展してきた企業グループです。
創業当時、高価で団体旅行が中心だった海外旅行市場において、「格安航空券を活用した個人旅行(FIT)」という新たなスタイルを提案し、旅行ビジネスの常識に挑戦することで市場を切り拓いてきました。
現在では海外・国内旅行に加え、ホテル、九州産交グループ、テーマパーク等へ事業を多角化し、広範なグローバルネットワークを構築しています。
同社グループは、”「心躍る」を解き放つ”というパーパスを掲げ、コア領域の変革と新規領域への挑戦を中期目標とし、持続的な成長を目指す姿勢です。
足元では円安の進行や訪日旅行(インバウンド)の活況が追い風となり、主力の旅行事業やホテル事業は好調に推移しています。
また、九州産交グループでは、TSMC進出効果による事業の拡大がバス事業などの業績を牽引しました。
技術革新への取り組みとしては、先進技術を導入した「変なホテル」シリーズの展開や、AIを含む情報技術を駆使したCX(顧客体験)向上 、グローバルな視野での業務集約とDX推進による生産性向上などの動きが見られます。
一方で、経営成績、財政状態等に影響を及ぼす可能性のある事項として、為替レートや原油価格の変動といった外部環境要因、過去に連結子会社で認められた雇用調整助成金等の不正・不適正受給問題などが挙げられます。
>>エイチ・アイ・エスについてもっと詳しく:苦境に直面する「エイチ・アイ・エス」業界変革の歴史と新たな取組とは
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KNT-CTホールディングスは、1941年に設立された長い歴史を持つ旅行会社の系譜を汲む持株会社です。
現在は、クラブツーリズム株式会社や近畿日本ツーリスト株式会社などを主要子会社とするグループとして、旅行業を単一の主要事業セグメントとして展開しています。
メディアとWebを組み合わせた企画旅行、法人・団体向け、地域共創事業、さらにはMICE(Meeting, Incentive, Convention, Event)といった幅広い領域を手掛けており、多様な顧客ニーズに対応する事業構造を有していると言えるでしょう。
旅行業界は、国内外の社会構造の変化やOTAの事業拡大といった外部環境の変動に強く影響を受ける市場特性があります。
同社グループは、このような環境下で競争優位性を維持・向上させるため、事業構造改革を積極的に推進しています。
特に、個人旅行分野におけるWeb販売の強化を重点課題とし、株式会社近畿日本ツーリストブループラネットを設立するなど、デジタルシフトを加速させるため具体的な技術やサービス戦略を進めている点は注目されます。
MICE事業の強化や、デジタル技術を活用した革新的な旅行スタイル・商品開発への取り組みは、今後の市場動向への対応を目指すものです。
また、市場の回復・成長を取り込む一方で、事業運営上のリスク要因も存在します。自然災害、感染症の流行、国際テロ、紛争といった外部環境の変化は旅行需要に直接影響し、景気変動、為替レートの変動も業績に影響を与える可能性があると考えられます。
株式会社IACEトラベルは、旅行業界の中でもBusiness Travel Management(BTM)市場に特化し、法人顧客を主なターゲットとしています。
国内外の出張に関わる様々な業務に対し、包括的なマネジメントサービス「BTMサービス」を提供している企業です。
同社は、BTMサービスの効率性を高めるための核として、クラウド出張手配システム「Smart BTM」を運営しています。
このシステムは、単なる手配ツールに留まらず、法人顧客のビジネストラベル全体の管理・最適化をサポートします。
今後の事業拡大投資計画では、「Smart BTM」のプロダクト価値向上に重点が置かれており、交通手段を含む予約商材の拡充や、UI/UXへの改善を図る想定です。
また、バックオフィス業務の自動化や、ナレッジのデータベース化による自動応答機能の実現、生産性向上に繋がる開発も計画されています。
さらに、これらのシステム開発に加え、システム認知度向上と販売機会拡大のための広告宣伝費、BTMサービス拡大に必要なセールス部門の人員採用にかかる人件費にも資金が充当される見込みです。
法人向けBTM市場は、企業の出張管理効率化やコスト削減ニーズから、今後もポテンシャルが見込まれる分野です。
株式会社IACEトラベルは、「Smart BTM」を核とした技術投資と、販売体制の強化を通じて、この市場での事業拡大を目指しています。
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ベルトラ株式会社は、1991年に設立され(前身企業含む)、同社及び連結子会社5社により構成される旅行関連事業を展開する企業グループです。
現在は、国内および世界150か国を対象とした現地体験型オプショナルツアー専門オンライン予約サイト「VELTRA」の運営が主軸事業となっています。
国内外の約9,000社の催行会社との強固なネットワークを通じて、2万点を超える幅広い商品を提供しており、様な旅行ニーズに応えています。
また、同社グループは単なるOTA(オンライン・トラベル・エージェント)に留まらず、観光関連事業者のITインフラを提供する観光IT事業(B2B2C領域)も展開しています。
具体的には、ブッキングプラットフォームやチケットプラットフォームを提供しており、特に関西私鉄4社の乗車券をデジタル対応するなどの実績があります。
技術面では、オンライン予約システムの自社開発・運用を基盤とし、全社的にAIやテクノロジーの活用を推進することでオペレーションの効率化を図っています。
市場環境を見ると、コロナ禍を経てインバウンド需要が過去最高を更新するなど、旅行需要は回復傾向にあります。
この回復基調を捉え、同社は国内事業の強化やビジネスポートフォリオの拡張を通じて収益力の向上を目指す方針です。
既存の催行会社ネットワークや会員基盤といったアセットを最大限に活用しつつ、「体験」と「交流」をテーマにしたサービス変革を進め、新たな収益モデルの確立に取り組んでいます。
一方、事業運営上のリスクや課題も存在します。
過去の事業年度において純損失を計上しており、安定的な収益を確保し、高効率経営を実現することが重要な経営課題となっています。