成長続くペットフード市場:国内外の銘柄とその戦略

はごろもフーズ

少子高齢化やライフスタイルの多様化が進む現代社会において、ペットがかけがえのない家族の一員であるという認識はより一層強まっています。

ペットの健康寿命延伸やQOL向上への関心が高まる中、特定の健康課題(アレルギー対応、高齢期サポート、消化器ケアなど)に配慮した機能性ペットフードや、原材料の品質・安全性にこだわったプレミアムフードへの需要が拡大しています。

こうした消費者ニーズの変化に加え、テクノロジーの進化も市場構造に影響を与えています。

膨大な購買データやペットの健康に関するデータを活用した製品開発やマーケティング、Eコマースの浸透による販売チャネルの多様化、メーカーが直接消費者に販売するD2Cモデルの台頭などは、既存のビジネスモデルに変革を促しています。

本記事では、こうした市場環境の中で、独自の技術、ビジネスモデル、あるいは長年培ってきた強みを活かして事業を展開するいくつかの企業の事例を紹介していきます。

科学とグローバル戦略でペット市場をリードする「ネスレ」

スイスに本社を置くネスレは、世界最大級の食品・飲料企業グループです。コーヒーのイメージが強い同社ですが、実は世界のペットフード市場においてもトップクラスの地位を確立しており、特に北米市場では圧倒的な存在感を放っています。

「ピュリナワン」「ピュリナプロプラン」「モンプチ」といった強力なブランドを多数保有し、ドライフードからウェットフード、療法食、おやつに至るまで、非常に幅広い製品ラインナップで世界中のペットと飼い主のニーズに応えています。

同社の競争力の核心は、科学的根拠に基づいた製品開発への強いこだわりにあります。ペットの健康に関する多岐にわたる分野で研究開発へ大規模な投資を継続しており、その科学的成果や知見を専門家へ共有する上で『ピュリナ インスティテュート』が中心的な役割を担っています。

グローバルブランドの展開力と、各地域市場の特性に合わせた細やかな製品・マーケティング戦略を両立させている点も強みでしょう。

また、原料調達から生産、販売網に至るまでの事業規模も、同社の事業運営における要素の一つです。同社は、ECや専門店といった販売チャネルへの注力や、アジアなどの一部市場における事業展開を進めているとされています。

M&Aでペット事業を拡大、ナチュラル市場に特化「ゼネラル・ミルズ」

シリアルやスナックで知られる米国の世界的な大手食品メーカー、ゼネラル・ミルズ。ゼネラル・ミルズのペット事業戦略の最大の特徴は、M&A(合併・買収)を積極的に活用している点です。

同社は2018年、ブルーバッファロー社の大規模な買収を機に、成長著しいペットフード市場へ本格的に参入しました。ブルーバッファローのペットフードは日本では馴染みがない方も多いかと思いますが、自然由来で高品質な原材料を使用した健康的なフードに重点を置いています。

さらにブルーバッファロー買収後も、2021年にタイソン・フーズからペット用おやつ事業、2024年にホワイトブリッジペットブランズからキャットフード事業をM&Aするなど、事業領域を戦略的に拡大しています。

finboard

特に、健康志向の強い消費者をターゲットとした、自然派かつ健康的な「ホールサム・ナチュラル」と呼ばれる市場セグメントに注力しています。

ゼネラル・ミルズは、自社が持つ広範なサプライチェーンや流通ネットワーク、食品開発のノウハウといった経営資源を投入し、買収したブランドの成長を後押しする方針です。

ゼネラル・ミルズの過去の決算の解説記事はこちら
>EC売上比率が急増!食品業界の全てが詰まった「ゼネラルミルズ」決算が面白い

科学と獣医師推奨でペット栄養学をリード「コルゲート・パルモリーブ」

歯磨き粉などのオーラルケア製品で世界的に知られるコルゲート・パルモリーブ。子会社「ヒルズ ペットニュートリション」を通じて、ペットケア事業においても重要な地位を占めています。

ヒルズの製品戦略の核心は、獣医師や栄養学者を含めた科学的研究に裏付けられた商品開発にあります。

finboard

特定の健康課題に対応する療法食「プリスクリプション・ダイエット」は、長年にわたり獣医師から信頼を得ており、この分野でのリーダー的存在。

他にも日々の健康維持を目的とした「サイエンス・ダイエット」も広く知られています。また、近年はマイクロバイオーム(腸内細菌叢)科学など、先端分野の研究にも力を入れています。

以前はヒルズの製品は、主に動物病院を通じて提供されてきました。この獣医師チャネルとの強固な関係が、ブランドの信頼性と専門性を支える基盤となっています。しかし近年は、自社ECサイトの立ち上げやペット専門店での販売強化など、販路の多様化も進めています。

高品質な機能性フードで成長する「ユニ・チャーム」

ユニ・チャーム株式会社は、衛生用品分野で培った技術とブランド力を背景に、ペットケア事業をグローバルに展開しています。中でも、ペットフードは同社の成長を牽引する重要なセグメントであり、その特徴的な製品開発と市場戦略が注目されます。

同社のペットフード最大の特徴は、ペットの健康ニーズへの深い洞察に基づいた製品開発力にあります。猫用では「銀のスプーン」や「AllWell」といったブランドで、吐き戻し軽減や腎臓・下部尿路の健康維持、毛玉ケアといった具体的な課題に対応。

犬用では「ベストバランス」で犬種や年齢に合わせた最適な栄養設計を行うなど、機能性を追求した製品をドライ、ウェット、おやつといった多様な形態で提供しています。

finboard

国内市場においては、ペットフード市場全体でトップクラスの地位を確立しており、特に猫用フードでは「銀のスプーン」が強力なブランド認知度を誇り、市場をリードする存在です。

マースやいなばペットフードといった競合がひしめく中で、長年培ってきた開発力と強力な国内販売網を活かし、高いプレゼンスを維持しています。

さらに、ユニ・チャームはグローバル市場での展開も進めています。世界的に見てもペットフード市場で活動する企業の一つであり、北米では過去に買収したHartz社、中国では現地企業との提携などを通じて事業展開を行っているとされています。東南アジアなどの市場へも注力しており、日本の機能性フードなどを通じて、海外市場での事業拡大を目指す方針であると報じられています。

ペットヘルスケアECを革新する「ペットゴー」

ペットゴー株式会社は、2004年の設立以来、犬猫向けの食事療法食や動物用医薬品といったペットヘルスケア商品に特化したEコマース事業を展開する企業です。「ペットヘルスケア×テクノロジー」を標榜し、テクノロジーを駆使してペットの健康寿命を最大化をしていくことをミッションとしています。

同社の事業の核心は、オンラインでの利便性の高さにあります。従来、動物病院での購入が一般的だった専門的な療法食などを、自社ECサイト「petgo.jp」や大手オンラインモールを通じて提供。これにより、飼い主の購入負担を軽減しています。

さらに、創業以来蓄積してきた膨大なペット関連データ(購買履歴や疾患情報など)の分析・活用能力が、他社との差別化を図る上での大きな強みと言えるでしょう。

finboard

このデータ活用を象徴するのが、2020年に開始したD2Cブランド「VETSOne (ベッツワン)」です。データ分析に基づき企画・開発された療法食やサプリメント、医薬品などを展開し、品質と価格のバランスを追求しています。

「ベッツワン」ブランドの育成は、ナショナルブランド依存からの脱却と、より独自性の高い事業構造への転換(D2Cシフト)を目指す同社の重要な戦略です。

ペットフード卸売を核に多角化を進める専門商社「エコートレーディング」

エコートレーディング株式会社は、1971年の設立以来、ペットフード・ペット用品の卸売を中核事業としてきたペット専門商社です。特にペットフードは同社の事業の根幹を成しており、国内外の多種多様なメーカーの製品を取り扱っています。

同社の強みは、全国に広がる営業・物流ネットワークに加え、単なる商品供給にとどまらない提案型の営業スタイルにあります。

独自のデータ分析システム「E-PERS」を活用し、市場トレンドや販売データに基づいた効果的な品揃え計画、魅力的な売場作りなどを小売店に対して提案しています。これにより、取引先小売店の売上向上にも貢献していると考えられます。

finboard

近年は、卸売事業で培った知見を活かし、事業の多角化を積極的に推進。プライベートブランド「ペッツバリュー」では、「ヒマラヤン・ドッグチュー」に代表されるような、素材や製法にこだわった独自性の高いペット用おやつなどを開発・販売しています。

同社は今後、データ活用による提案力の強化や、PB商品の拡充、多角的な事業展開などを進めていく方針であると報じられています。これらを通じて、卸売事業に加え、総合的なペット関連ビジネスの展開を目指しているものと考えられます。

食品大手が水産技術で挑むペットフード「はごろもフーズ」

「シーチキン」ブランドで広く知られる大手食品メーカー、はごろもフーズ株式会社。同社は長年培ってきた食品製造のノウハウを活かし、ペットフード事業にも注力しています。特に、主力の水産加工事業とのシナジーを活かした製品開発が特徴と言えるでしょう。

同社のペットフード事業は主に猫用のウェットフードが中心で、「無一物(むいちぶつ)」「にゃんチュラル」「ねこふり」など、多様なバリエーションを展開しています。

健康・安全志向の高まりに応えるプレミアムブランド「無一物」は、原材料を主原料と水、寒天のみに限定し、添加物不使用を徹底しています。この明確なコンセプトが、特定の飼い主層から支持を集めています。

finboard

はごろもフーズの強みは、水産物の調達から加工に至るサプライチェーンと技術力、そして食品メーカーとしての「はごろも」ブランドが持つ信頼性にあります。

大手専業メーカーがひしめく競争の激しいペットフード市場において、同社は自社の得意分野である魚介系製品、そして「無一物」に代表される無添加・国産といった付加価値の高いニッチ市場に戦略的に注力している様子がうかがえます。

ペットフード事業全体の規模は、同社の他事業と比較して大きくないとされていますが、「無一物」シリーズなどの販売が堅調です。同社は、食品メーカーとしての品質管理や安全への配慮を活かし、この分野で独自のポジションを確立・拡大していくことを目指していると考えられます。

ペットフード業界を支える原料の巨人「ADM」

最後にアーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)は、米国に本社を置く世界有数の農業・食品原料企業です。ADM自身がペットフードを販売しているわけではありませんが、食品、飲料、飼料など幅広い産業に原料やソリューションを提供しており、アニマルニュートリション部門も主要事業の一つです。

ペットケア市場においては、主にペットフードメーカー向けのB2Bサプライヤーとしての役割を担っていて、ペットフードの基礎となる多様な原料を提供しています。

finboard

また、単に原料を販売するだけでなく、顧客であるメーカーと協力し、製品開発をサポートする体制も整えています。

同社の強みは、グローバルな事業規模、多様な原料を開発・供給できる能力、そして研究開発力にあります。特にサステナビリティや自然由来原料、健康機能といった現代のペットフード市場のトレンドに対応した原料開発に力を入れている点が注目されます。