円高局面における企業への影響:輸入関連セクターに着目した考察

良品計画

最近の為替市場では、円高が進行する局面が見られることがあります。
一般的に円高は、輸出企業の海外での価格競争力に影響を与えるため、一部の企業にとってはマイナス要因と捉えられることがあります。

一方で、事業構造によっては、円高が輸入コストの低下に繋がる可能性のある企業も存在します。
例えば、電力・ガス、小売、食品といったセクターの一部の企業では、原材料や商品を海外から調達している場合があり、円高によって円建てでの仕入れコストが相対的に低下することが考えられます。

これらの企業は原材料や商品を海外から安価に調達でき、業績向上が期待されます。
市場全体が不安定な局面でも、こうした銘柄は相対的に注目されやすいでしょう。 

円高で影響を受ける可能性のある事業モデルと企業事例

円高が事業活動に影響を与える可能性のある企業について、いくつかの事例を基に見ていきましょう。

一般的に、製品や原材料の輸入比率が高い企業は、為替変動、特に円高の影響を受けやすいと考えられます。
小売業を例に挙げると、家具関連ではニトリホールディングス、生活雑貨関連では良品計画などが、そのような事業構造を持つ企業として知られています。

同様に、燃料輸入のコストが事業運営上の重要な要素となる電力・ガス会社や航空会社なども、円高による影響が考えられる企業群です。

加えて、食材の多くを輸入に頼る食品メーカーや外食チェーンといった業種も、為替変動が事業に影響を与える可能性のある事例として挙げることができるでしょう。

ニトリホールディングス (9843)

finboard

家具・インテリア小売最大手のニトリHDは、「お、ねだん以上。」で知られる製品の多くを海外から輸入する企業です。
同社IR情報が示す通り海外生産比率が高く、このような事業構造の場合、一般的に円高は円建てでの仕入れコスト低減に繋がる可能性があると考えられます。
また、開示されている為替感応度からは、為替レートの変動が損益に与える影響が比較的大きいことが示唆されています。
※影響の大きさは時期や前提により変動する点に留意が必要です。

このメリットを活かす上で鍵となるのが、独自のSPA(製造小売)モデルです。
企画から製造、物流、販売まで一貫してコントロールしコストを最適化するこの仕組みは、こちらの記事でも解説されています。

円高によるコスト削減分は、単に利益率改善に繋がるだけではありません。
更なる低価格戦略や販促強化の原資となり、シェア拡大も後押しします。
このように競争環境に応じた柔軟な戦略を採れる点も同社の特徴です。

ニトリホールディングスに関連する特集記事
デジタル拠点設立は売上3兆円への道 ニトリHD・CIO佐藤昌久氏インタビュー
本業は頭打ちのニトリ 36期連続増収増益への成長シナリオとは
カインズがハンズを、ニトリが島忠を…2021年にホームセンター再編が起きた理由

東京電力ホールディングス (9501) / 関西電力 (9503) など電力大手

finboard

finboard

東京電力HDや関西電力といった大手電力会社は、発電燃料、特に液化天然ガス(LNG)や石炭の多くを輸入に頼っています。
燃料の国際取引は主にドル建てのため、円高の状況下では、円建てでの燃料調達コストが低下する傾向にあります。

各社の決算資料などでは、為替レートの変動が損益に与える影響の大きさ(為替感応度)が開示されており、その数値が高いことが示されています。
例えば1円の円高が数十億円規模で営業利益に影響を与えるという試算もあります。
※ただし影響は燃料構成や調達契約により各社で異なります。

しかしながら、電力会社の事業運営においては、「燃料費調整制度」の存在を考慮する必要があります。これは燃料費の変動を、時間差を伴って電気料金に反映させる仕組みです。

このため、円高によって燃料調達コストが削減されたとしても、その効果が直ちに全額企業の利益として計上されるわけではなく、時間差を伴って電気料金を通じて利用者に還元される側面が強い点には留意が必要です。

日本航空 (JAL: 9201) / ANAホールディングス (9202) など航空大手

finboard

finboard

日本航空(JAL)やANAホールディングスといった大手航空会社は、為替変動、特に円高によって事業が影響を受ける可能性のある企業の一例として挙げられます。

各社のIR情報によると、営業費用に占める燃料費の割合は大きいです。
航空燃料の調達は国際価格に連動し、主にドル建てで決済されることが一般的です。
このような事業構造の場合、円高は燃料の円建て調達コストを相対的に引き下げる方向に作用し、企業の損益計算において影響を与える要因の一つと考えられます。

また、これらの企業が開示する為替感応度からは、為替レートの変動が業績に与える影響が比較的大きいことが示唆されています。
事業内容別に見ると、例えば国内線事業においては、円高による燃料コスト低減の影響が現れやすい構造と指摘されることがあります。

一方で、国際線事業においては、外貨建てで得られる収益が円換算される際に円高によって目減りするという側面も考慮に入れる必要があります。
燃料価格や為替の変動リスクにはヘッジ取引で備えているのが一般的です。
このため、実際の業績に円高の影響が反映されるまでには時間差が生じる可能性がある点や、その効果の度合いが一様でない点には留意が必要です。

日本航空 / ANAホールディングスに関連する特集記事
 ・「日本航空」「ANA」など10社!今週お届けした最新決算ダイジェスト(国内編)
売上が過去最高の2兆円超え! 「ANAホールディングス」2019年3月期本決算

サイゼリヤ (7581)

finboard

低価格イタリアンレストランとして事業を展開するサイゼリヤは、製造から販売までを一貫して管理するビジネスモデルを特徴としています。

同社のIR資料によると、国内外の自社工場での生産・加工を進めるとともに、一部のプライベートブランド商品などを海外から輸入しており、グローバルな調達網を構築していることが示されています。

このようなビジネスモデルにおいては、輸入される原材料や商品のコストが為替変動の影響を受けると考えられます。一般論として、円高が進行した場合には、これらの円建てでの仕入れコストが相対的に低下する要因となる可能性があります。

同社は、為替ヘッジの活用にも言及しており、品質を維持しつつ低価格での提供を目指す方針の一環として、コスト管理や品質維持に取り組んでいるとされています。
自社工場での製造・加工推進も、そうした取り組みの一つと考えられます。

円高による仕入れコストの変動は、同社の事業運営における価格戦略や収益性に影響を与える要因の一つとなり得ると考えられます。

もちろん、天候不順による原材料価格の変動など、為替以外の要因も事業リスクとして別途考慮する必要があるでしょう。

良品計画 (7453)

finboard

「無印良品(MUJI)」ブランドを展開する良品計画について見ていきましょう。
衣料品や生活雑貨、食品等を国内外で幅広く販売する企業です。

IR情報によれば、商品の多くを海外(特にアジア地域)で生産しています。
そして日本国内市場向けに輸入する製品が多いビジネスモデルとなっています。

このような場合、円高は国内事業における円建ての仕入れコストを相対的に抑制する方向に作用する可能性があり、これは国内事業の採算に影響を与える要因の一つとなり得ます。

一方で、海外事業の比率が高いことも同社の重要な特徴と言えます。
海外事業で得た外貨建ての利益は、円高が進行した局面では、円換算する際にその評価額が減少する影響を受けます。

したがって良品計画への円高の影響は、国内でのコスト削減メリットと、海外利益の円換算額減少とのバランスを考慮した総合的な評価が不可欠です。
どちらの影響が大きいかは、国内外の事業構成比や為替レートの水準によって変動します。

良品計画に関連する特集記事
良品計画の成長戦略:2030年に売上高3兆円を目指す「地域密着型」経営の中身
良品計画の事業を解説!「無印良品」の三本柱と海外事業を牽引する中国に注目
苦戦の「良品計画」グラフ6枚でわかる3Q決算まとめ

ABCマート (2670)

finboard

靴専門店チェーンを展開するABCマートは、プライベートブランド(PB)商品と並行して、海外のナショナルブランド(NB)の靴も多数輸入・販売している企業の一例です。

IR情報によるとNB商品を含むスポーツカテゴリが売上構成で重要な位置を占めます。
これらの商品の仕入れは主に外貨建てで行われるため、一般的に円高の局面では、円建てでの仕入れコストが相対的に低下する方向に作用します。
こうしたコスト面の変動は、企業の粗利益率や営業利益に影響を与える可能性のある要因の一つと考えられます。

同社は、NBの正規販売とPBの強化を両立させる事業戦略をとっているとされています。
為替レートの変動は、輸入品のコストを通じて、企業の収益性に影響を与える要素となり得ます。
また、一部のNB商品に関して独占的な販売権を保有しており、それが市場での価格設定において一定の影響力を持つ可能性も指摘されることがあります。

これらの要因により、円高メリットを利益として確保しやすい構造とも言えるでしょう。

ABCマートに関連する特集記事
卸売から小売業への転換に成功し、成長してきたABCマート
ABCマートの地域・品目別の売上内訳

ニッスイ (1332)

finboard

水産大手であるニッスイ(旧:日本水産)は、漁業から養殖、食品加工に至るまでグローバルに事業を展開している企業の一例です。

IR情報によると、海外からサケ・エビ等の水産資源を多く輸入しており、これが原材料コストの大きな部分を占める事業構造です。
そのため円高局面では、これら輸入コストの円建て価格が低下し、コスト抑制を通じて、水産・食品事業の利益率改善に繋がる可能性があります。

ただし、水産物の価格自体が漁獲量や需給バランスなど市況要因で大きく変動します。
この市況リスクは常に考慮すべき点として、IR資料等でも指摘されます。

一方でニッスイは海外での生産・販売や輸出も活発に行っています。
そのため、円高は海外子会社の利益や輸出売上の円換算額を減少させる方向に作用する側面も持ち合わせていると考えられます。

したがって、円高が同社に与える全体的な影響を評価する際には、これらのプラスとマイナスの両側面を考慮した総合的な分析が求められます。
加えて、先に触れた水産資源価格そのものの変動も、業績を左右する重要な要素として注視する必要があるでしょう。

王子ホールディングス (3861) / 日本製紙 (3863) など製紙大手

finboard

finboard

王子ホールディングスや日本製紙といった日本の大手製紙会社は、紙の主原料となる木材チップやパルプの多くを海外からの輸入に依存しています。
国内資源だけでは生産を賄いきれず、世界各地から調達しているためです。

これらの原料輸入は主に外貨建てで決済されるため、一般的に円高の局面では、円建てでの原料調達コストが相対的に抑制される傾向にあります。
原料コストが製造原価に占める割合が大きい場合、為替変動、特に円高は企業のコスト構造に影響を与える要因の一つと考えられます。
また、製紙業はエネルギーを多く消費する産業であるため、輸入燃料費も円高によって低下する可能性があります。

一方で、製紙業界はペーパーレス化の進展による構造的な需要の減少という課題に直面していると指摘されています。
このような状況下では、コスト管理が企業経営における重要な要素の一つとされています。

こうした事業環境において、円高による原材料や燃料の調達コストへの影響は、企業の事業運営における検討事項の一つとなり得ると考えられます。
ただし、原料調達は長期契約に基づいて行われる場合もあり、為替レートの変動が実際のコストに反映されるまでには時間差が生じる可能性がある点には留意が必要です。

東京ガス (9531) / 大阪ガス (9532) など都市ガス大手

finboard

finboard

東京ガスや大阪ガスなどの大手都市ガス会社は、その主原料である液化天然ガス(LNG)のほぼ全量を海外からの輸入に依存しています。
これは、国内には利用可能な天然ガス資源が乏しいためです。

LNGの調達契約は多くがドル建てで行われるため、一般的に円高は円建てでの調達コストを相対的に引き下げる方向に作用します。
原料費はコスト構造の主要な部分を占めるため、為替変動、特に円高は企業のコストに影響を与える要因の一つと考えられます。

しかしながら、都市ガス業界には「原料費調整制度」という仕組みが存在し、原料価格の変動をガス料金に反映させることで影響を調整しています。
この制度により、円高による調達コストの低下分は、時間差を伴って最終的に利用者のガス料金に還元される側面が強いため、企業の利益として直接的に大きく残るわけではない点に留意が必要です。
※ただし調整期間中は、一時的な利ざや改善に繋がる可能性もあります。

また近年、これらの企業は電力小売事業への参入など、事業の多角化を進めている動きも見られます。
こうした事業構成の変化は、会社全体として為替レートの変動から受ける影響度合い(為替感応度)を、従来とは異なるものにしている可能性があり、事業内容を理解する上で考慮すべき点の一つと言えるでしょう。

東京ガス / 大阪ガスに関連する特集記事
東京ガスの業績(2015年度)

日清製粉グループ本社 (2002)

finboard

製粉国内大手である日清製粉グループ本社は、その事業特性から為替変動の影響を受ける可能性のある企業の一例です。
同社IR情報によると、日本で消費される小麦粉の原料の大部分は輸入小麦であり、国内自給率が低いことから、主に米国・カナダ・オーストラリアなどからの輸入に依存しているとされています。

輸入小麦の価格は為替レートの影響を受け、一般的に円高は円建てでの調達コストを相対的に引き下げる方向に作用する可能性があります。
原料コストは企業の収益性を左右する要素の一つであり、円高による調達コストの変動は、理論上は企業の採算に影響を与える要因となり得ると考えられます。

ただし、日本の輸入小麦に関しては、政府による売渡価格制度が存在します。この制度は、政府が小麦を輸入し、定期的に改定される価格で製粉会社へ売り渡すというものです。

そのため、国際市場価格や為替レートの変動が、即時・直接的にコストに反映される訳ではなく、円高メリットを享受できる時期やその度合いは、この制度の影響を受けます。
加えて、最終製品の顧客への価格転嫁状況も、最終的な利益を左右する点は留意が必要です。

円高とセクター別事業構造:一般的な関連性

円高局面で、特に影響を受けやすいと考えられるセクターを整理します。
これらの多くは、事業における輸入依存度の高さが共通点と言えるでしょう。

小売業: 例えば、海外製品やブランド品、あるいは海外で生産された製品を輸入して販売する事業形態の企業の場合、円高は円建てでの仕入れコストを相対的に引き下げる方向に作用する可能性があります。
電力・ガス: 主原料である液化天然ガス(LNG)や石炭などの多くを輸入に頼る企業の場合、円高は円建てでの燃料調達コストの低下に繋がる可能性があります。
航空会社: 燃料費が営業費用に占める割合が大きく、その決済が主にドル建てで行われる場合、円高は円建てでの燃料コストに影響を与えると考えられます。
食品関連: 輸入食材や原料への依存度が高い企業の場合、円高は円建てでの調達コストに影響を及ぼす可能性があります。
製紙・パルプ: 輸入木材チップなどの原料調達コストが、円高によって変動する可能性があります。

これらのセクターにおいて、円高がコスト面に与える影響の度合いは、売上原価や費用全体に占める輸入品や外貨建てコストの割合などによって異なると考えられます。
一般的に、輸入比率が高いほど、円高による円建てコストへの影響は大きくなる傾向があります。

一方で、これらのセクターに属する企業の多くは国内需要に依存する事業特性を持つ場合もあります。
そのため、円高の進行と同時に国内景気が大きく悪化するような状況下では、コスト面での変化が販売不振など他の要因によって相殺される可能性についても考慮に入れる必要があるでしょう。

円高が企業業績に与える影響を分析する際の着眼点

円高が個別企業の業績にどのような影響を与えるかを分析する際には、いくつかの一般的な着眼点があります。以下に主なポイントを挙げます。

まず考慮すべき点の一つは、企業のコスト構造において、輸入品や輸入原材料、あるいは外貨建ての費用がどの程度の割合を占めているかという点です。決算短信、有価証券報告書、決算説明会資料などを通じて、企業のコスト構造を詳細に確認することが、影響度合いを把握する上で参考になる場合があります。
海外からの直接調達が多い事業構造かどうかも、関連する検討事項です。

また、バランスシート(貸借対照表)で外貨建ての負債が過大でないかの確認も必要です。
多額の外貨建て負債を抱えている場合、円高の進行によって負債の円換算額が増加し、事業活動における他の要因による影響を相殺する可能性も考えられます。

少し意外な視点ですが、製品・サービスへの価格転嫁が難しい企業が、結果的に円高の恩恵を受けやすい場合もあります。
コスト削減分が値下げ圧力に繋がりにくく、利益率の改善に直結しやすいためと考えられます。

企業の「為替ヘッジ方針」は、円高メリットが実際に損益に反映される時期や度合いを見極める上で重要です。
企業が開示している「為替感応度分析」(為替レートの変動が損益に与える影響額の試算)も、メリットの大きさを測る上で有用な情報源となります。

これらの定量的・定性的な要素を基に、個別企業を詳細に分析することが、企業理解を深める上で重要になると考えられます。

円高を追い風に賢く投資機会を捉える

本記事では、円高という為替変動が、一部の企業やセクターの事業活動にどのような影響を与え得るかについて、一般的な情報や分析の視点を解説しました。
例えば、海外からの輸入コストが事業運営上の重要な要素となる小売、エネルギー、航空、食品、製紙といったセクターの一部の企業では、円高がコスト面に影響を与える可能性が考えられます。

これらの銘柄への投資を検討する際には、単に「円高だから」という理由だけでなく、より踏み込んだ個別企業の分析が不可欠となります。
確認すべきポイントとして、輸入比率やコスト構造、為替感応度、外貨建て負債の状況、価格戦略、為替ヘッジ方針などを精査しましょう。
企業の本来の競争力や成長性、財務健全性といったファンダメンタルズに関する多角的な視点も重要です。

為替相場の動向は不確実性が高く、常に変動する点を忘れてはいけません。
円高が進行する背景にある経済状況によっては、コスト削減メリットが需要減で相殺されるリスクも考慮する必要があります。

市場動向や個別企業情報を注視しつつ、ご自身の投資方針とリスク許容度に基づき、賢明な投資検討を進めて頂ければ幸いです。