大手SIer銘柄:DXを軸に各社の事業モデルを探る

現代のビジネス環境において、DXは企業が競争優位性を確立し、持続的な成長を遂げるための最重要課題の一つです。
クラウド、AI、IoTといった先端技術の急速な進化と普及を背景に、あらゆる産業でIT投資の戦略的重要性が高まっています。
この変革期は、顧客企業のDXを支援するSIerにとって、大きな事業機会であると同時に、新たな価値提供モデルへの転換を迫るものでもあります。
特に大手SIer各社は、長年培ってきた知見やリソースを活かし、このDX市場をリードしようと独自の戦略を打ち出しています。
本稿では、国内の大手SIer銘柄を取り上げ、各社がどのような事業モデルや技術戦略で臨んでいるのか、その特徴と将来性、課題について分析します。
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富士通株式会社は、1935年に設立された日本を代表する総合ITベンダーです 。
中核事業は、顧客のデジタルトランスフォーメーションを支援するテクノロジーソリューションであり、SIerとしてコンサルティングから運用まで一貫したサービスを提供しています。
近年は、社会課題解決と成長を目指す事業ブランド「Fujitsu Uvance」を推進しています。
Fujitsu Uvanceでは、「Sustainable Manufacturing」(持続可能なものづくり)や「Trusted Society」(信頼できる社会)といった重点領域を定め、具体的な社会課題解決に貢献するサービスの創出に注力しています。
この戦略は、同社が単なるシステム開発に留まらず、より広範な価値提供を目指している姿勢を示すものです。
また、DXコンサルティング専門会社Ridgelinezを擁し 、グローバルデリバリーセンターなどを活用したサービス提供体制を強化し、国内外のニーズに対応しています。
データドリブン経営の強化に向けた「OneFujitsuプログラム」も推進しています。
IT市場でのDX投資拡大を背景に、富士通はFujitsu Uvanceを核に先端技術開発とDX企業への変革を推進し、技術的プレゼンス強化を目指しています。
今後は、継続的な技術革新、高度人材確保、グローバル競争、プロジェクトリスク管理といった課題への的確な対応が、持続的成長の鍵となるでしょう。
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NTTデータグループは1988年設立、NTTグループ中核の大手SIerです。
国内外の公共・社会基盤、金融、法人分野へ、コンサルティングから開発、運用まで幅広くITサービスを提供。
2023年7月に持株会社体制へ移行し、NTT Ltd.との海外事業統合で「ITとConnectivityの融合」を推進し、グローバルな競争力と提供価値向上を目指しています。
同社の競争力の源泉は、将来を見通したForesight起点のコンサルティング力にあります。
顧客の将来像から事業構想、サービスデザインを創造し、新たな価値提供を追求。
また、海外事業統合により、インフラ領域とシステムインテグレーション力を組み合わせた総合的なサービス提供を可能にしました。
加えて、クラウド、AI、データアナリティクスといった先端技術を活用したソリューション開発力も特徴です。
オープン勘定系フレームワーク「PITON」、そして生成AI活用コンセプト「Smart Agent」および営業向けAIエージェントサービス「LITRON Sales」の提供開始などが具体例です。
同社の今後の成長には、海外事業の収益性改善、成長領域への戦略的投資、人材戦略「Best Place to Work」が不可欠です。
一方、対処すべき課題として、国内事業に比べ収益性が低い海外事業の収益性改善、世界的な人材獲得競争の激化などが挙げられています。
また、不採算案件の損失にも言及されており、これらの課題への継続的な取り組みが重要となります。
>>NTTデータについてもっと詳しく:NTTとNTTデータが海外事業統合へ!その「紛らわしい」経緯を解説
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日本電気株式会社(NEC)は「Orchestrating a brighter world」というPurposeを掲げ、社会ソリューション事業をグローバルに展開しています 。2024年3月期からは事業セグメントを「ITサービス」と「社会インフラ」の2つに再編し、コンサルティングからシステム構築、ハードウェア提供まで幅広く顧客を支援しています 。
NECは「2025中期経営計画」に基づき、DX市場への注力を鮮明にしています 。
その核となる生体認証・映像分析、セキュリティといったコアDX領域の技術や、世界トップレベルの性能を持つとされるAI技術群の強化に取り組んでいます。
また、グローバル市場での成長を加速するため、海外企業のM&Aを積極的に推進しています。
デンマークのソフトウェア企業KMD社や、スイスの金融向けソフトウェア企業Avaloq社などを買収し、各地域・業種での事業基盤を強化してきました 。
加えて、子会社であるNetcracker TechnologyのOSS/BSSソリューションは、グローバルな通信事業者向けビジネスにおいて重要な役割を担っています。
今後のSIer市場はDX投資の拡大が見込まれていますが、NECにとってはグローバルな競争激化や技術革新の速さへの対応が求められる環境です。
高度専門人材の育成・確保、製品・サービスの品質維持、そしてリスク管理といった経営課題への継続的な取り組みが、同社の事業展開と社会価値実現のためには不可欠と考えられます。
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株式会社日立製作所は、日本の産業発展と共に歩んできた総合電機メーカーであり、現在は社会イノベーション事業をグローバルに推進する大手SIerとしても知られています。
同社はデジタルシステム&サービス、グリーンエナジー&モビリティ、コネクティブインダストリーズを主要な事業セグメントとし、顧客のDX支援に注力しています。
日立製作所のSIerとしての独自性は、長年培ってきたOTと先進のITの知見を融合させ、さらに自社の多様なプロダクトを組み合わせることで、幅広い顧客にソリューションを提供できる点にあります。
その中核となるのが、顧客のデータから価値を協創するためのソリューション群「Lumada」です。
これはPLAN、BUILD、OPERATE、MAINTAINというサイクルを通じて顧客価値を高めることを目指しています。
そのLumada事業の成長を牽引するのが、デジタルエンジニアリングサービスを提供するGlobalLogic社です。
この買収はLumadaのデジタルポートフォリオ強化が目的です。GlobalLogic社のデザイン力やデジタルエンジニアリング力を活かし、AI・IoT等先端技術による日立のソリューション提供能力を高めました。
今後のSIer市場において、日立製作所はDX市場の拡大やGX分野への関心の高まりを背景に、Lumadaを中心としたデジタルソリューション事業の成長が期待されます。
しかし、技術革新の速さへの対応、高度デジタル人材の育成・確保は喫緊の課題です。
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株式会社野村総合研究所(NRI)は、1965年に日本初の民間総合シンクタンクとして設立され、その後システム開発部門と統合し現在の形となりました。
大手SIerとして、「コンサルティングサービス」と「ITソリューションサービス」を事業の両輪としています。
特にITソリューションサービスは、金融ITソリューション・産業ITソリューション・IT基盤サービスから構成され、幅広い顧客層へサービスを提供しています。
NRIの際立った特徴は、未来社会の予測・洞察に基づく戦略提言などの「ナビゲーション」と、それを具現化するITシステム開発・運用などの「ソリューション」を一気通貫で提供できる総合力です。
この「ナビゲーション&ソリューション」という独自の事業モデルを強みとし、顧客企業のDX推進や社会全体の課題解決に貢献しています。
近年では、AIやクラウドコンピューティングといった先端技術の研究開発とそれらの活用、共同利用型システムの拡大などを通じて、高付加価値な事業モデルへのシフトを目指しています。
また、海外においてはM&Aも活用しながら、各地域における事業基盤の強化とグローバルなサービス提供体制の構築を進めています。
Vision2030において「デジタル社会資本で世界をダイナミックに変革する存在へ」という目標を掲げるNRIは、DX市場の拡大やIT投資需要といった事業環境の中で成長を目指しています。
一方で、大規模プロジェクト管理や企業買収に伴うのれんの減損リスクなどには留意が必要です。
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TIS株式会社は、複数のIT企業が統合し2008年に誕生したTISインテックグループの中核企業です。
同社は事業活動を通じて社会課題解決への貢献を目指しており、主に情報化投資に関わるアウトソーシング・クラウドサービス、ソフトウエア開発、ソリューション提供を行っています。
同社の事業セグメントは、オファリングサービス・BPM・金融IT・産業IT、広域ITソリューションの5つから構成されています。
TISの際立った特徴は、クレジットカード業界をはじめとする金融分野における深い業務知識と豊富なシステム構築・運用ノウハウです。
その代表的なソリューションブランドである「PAYCIERGE」は、リテール決済ソリューションのトータルブランドとして、キャッシュレス決済の更なる普及に貢献することを目指しています。
近年、同社は中期経営計画「Be a Digital Mover」を推進し、企業のDX支援に全社的に注力しています。AIやデータアナリティクスといった要素技術の研究開発に取り組み、クラウドサービスを含むこれらの技術を活用した、高付加価値サービスの創出を強化。
金融機関におけるシステム投資の継続やキャッシュレス決済市場のさらなる成長は、TISにとって事業機会となり得ます。
一方で、技術革新への迅速な対応、高度IT人材の確保と育成は、持続的な成長と技術的リーダーシップを確立する上で重要な課題と考えられます。
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SCSK株式会社は、住商情報システム株式会社と株式会社CSKが2011年に経営統合して誕生した、住友商事グループのSIerです。
長年にわたる豊富な実績を持つ両社の事業基盤を引き継ぎ、「共創ITカンパニー」を掲げています。
コンサルティングからシステム開発、ITインフラ構築、ITマネジメント、BPO、ITハード・ソフト販売等のITサービスを提供しています。
同社の強みは、製造、流通、金融、通信といった多岐にわたる産業分野における深い知見と、幅広い顧客基盤です。
さらに、研究開発組織を通じてAI、IoT、クラウド、セキュリティといった先端技術の研究開発に取り組み、技術ドリブン推進として先進技術の獲得を進めています。
また、DXを想定したシステムの再構築や戦略的IT投資需要に応じたサービスを提供しています。
同社は、各種クラウドのインフラ提供を通じ、クラウド対応需要やクラウド・デジタル活用市場への貢献を目指しています。
また、モビリティ分野を新たな成長領域と位置付け、専門子会社設立や、モビリティトランスフォーメーションのサービス化推進、CASEの進展に対応した技術開発といった取り組みを進めています。
今後のSIer市場では、製造業におけるスマートファクトリー化の推進や金融システムの次世代化、そして社会全体のDX加速といった動きが見られます。SCSKはこれらの分野での事業機会を追求しつつ、技術革新へのキャッチアップの遅れが競争優位性を損なうリスクとなり得ることを認識し、研究開発活動などを通じて対応を図っています。