今回は、国内最大規模の合同企業セミナー『就職博』などを手がける「学情」(証券コード: 2301)について見ていきます。
(学情)
学情の創業者は中井清和氏。
大阪府出身で、1972年に近畿大学法学部卒業後、広告会社に入社します。
当時、中井氏は優秀な営業マンだったそうで、部署全体の売上のほぼ半分を中井氏一人で稼ぎ出していたとのこと。
しかし、当時、勤めていた広告代理店で、経営危機に伴う大幅な人員削減が行われます。
中井氏は20代だったためリストラの対象外でしたが、この会社に自分の将来を託したくないと思ったそうで、思い切って退職をします。
1976年、中井氏が28歳の時に、総合広告代理業の実鷹企画(学情の前身)を創業して社長に就任します。
優秀な中井氏だったからか、前職時代の部下も何人かついてきてくれたそうです。
その後、広告業を続けるもあまり利益が出ず、1981年に人材関連の事業に着手します。
当時の就職活動は、学生の家に送られる就職情報誌に新卒の求人を掲載し、学生から資料請求のはがきが帰ってくるのをひたすら待つというものでした。
もちろん一部の有名企業のみにハガキは届き、それ以外の企業は人材確保に困ります。
そこで、企業側が学生に会いに行く「企業合同説明会」を日本で初めて開催しました。
その後、2002年にジャスダック市場に上場、2005年に東証二部、2006年に東証一部に市場変更しています。
2018/10期の売上は64.5億円にまで増加。
経常利益率も24.7%にまで上昇しています。
学情では、新卒や20代の転職希望者に対する企業PR・情報提供サービス業務や人材紹介事業などを手がけており、大きく3つのサービスを提供しています。
①新卒採用集合商品
新卒採用集合商品では、合同企業説明会「就職博」、インターネット就職情報サイト「あさがくナビ(朝日学情ナビ)」といった商品によって、多くの企業と学生との“出会いの場”を創出しています。
②新卒採用個別品
個々の学生へ向けて、より強いアピールで直接アプローチできるダイレクトメールの制作・発送代行や、電話によるセミナー参加希望者受付や、省庁・地方自治体などの公的機関が行う雇用対策事業を受託し、学情が実施しています。
③中途採用商品
(Re就活)
20代の若手人材専門インターネット転職情報サイト「Re就活」により、即戦力を求める企業と、自己実現を望む転職希望者をマッチングしています。
それぞれのサービス別売上推移を見ていくと、合同企業説明セミナー「就職博」を土台に、20代向けの転職情報サイト「Re就活」が売上成長を牽引していることがわかります。
就職博は2012/10期の10.2億円から27.5億円にまで売上を増加。
一方、Re就活の2012/10期売上は4億円ほどでしたが、2018/10期は17.5億円にまで増やしていることがわかります。
就職博は、1981年に日本で初めて行われた合同企業セミナーで、仙台・東京・名古屋・大阪・京都・九州の6大都市をはじめとする主要都市で開催されています。
就職博の年間来場学生数は約20万人、参加企業数は累計7,000社以上にのぼるとのこと。
会場に多くのブースを設置して、ブースごとに参加企業の採用担当が説明会を開催します。
他の合同説明会との違いは学生と直接面談をする形式をとっている点。
これにより、単なる説明会ではなく、学生と企業とのコミュニケーションを促進することで満足度が上がるようです。
実際に、参加企業の満足度は73%、参加学生の満足度は90%と高い水準を維持しています。
(就職博)
就職博に参加する学生の就職活動の傾向は、「中小やベンチャーを考えている」学生が93%以上、「収入よりもやりがい重視」の学生が92%いるそうです。
つまり、とりあえず大企業!という学生よりは、業界や企業の規模にとらわれずやりがい重視の学生が多いということになります。
直近のイベントの出展企業を見てみると、総合商社「丸紅」や「日本航空」など大企業が掲載されています。
中堅企業や中小企業も多数出展するようですが、業界の規模を問わず幅広い企業が参加しているようです。
学情のイベント開催数を見ていくと、2018年の開催数は135回でした。
そのうち、新卒の就活生を対象とした「インターン」は33回、「4年生対象」のイベントは81回開催されており、新卒向けのイベントが全体の84%を占めることがわかります。
また、「インターン」のイベント開催数が増加しており、「4年生対象」のイベント数が減っていることから、就活の前倒しが本格化していることを察します。
学情は就職博を土台に、Re就活で売上を成長させています。
Re就活の売上成長率を見ると、2018/10期の売上成長率は46%と非常に高い水準で成長していることがわかります。
サービスの内容は転職支援サービスを提供しており、企業からのダイレクトメッセージやスカウトを受けることができます。
Re就活の会員属性を見ていくと、登録者の93.5%は20代で、四年制大学の卒業者が80%を占めています。
また、40%以上が関東在住であることや社会人経験ありの人材が7割を占めることも特徴です。
マクロミルのイメージ調査によると、「リクナビNEXT」や「doda」などとの競合比較をしても、20代向けの転職サイトとして認知度No.1とのこと。
さらに、Re就活では2018/5から「神木隆之介」をテレビコマーシャルや電車内の広告に抜擢しています。
その結果、Re就活の認知度は右肩上がりに上昇しています。
20代のの認知度は、CM開始前の2月時点では6.1%だったのが、CM開始から約半年後の10月には29.7%にまで上がっています。
20代の転職サイトとして確固たる地位を築きつつあるのかもしれません。
コスト構造・財政状態を見ていくと、販管費率は40%前後で推移しています。
売上拡大に伴って売上原価率は改善傾向で、2018/10期は34.0%まで低下。
売上原価率の改善にともない、6年間で営業利益率は3.8%から22.5%にまで上昇しています。
バランスシートも確認していくと、総資産は113億円あります。
そのうち、金融資産が84億円とBSの74%を占めています。
資産の原資となる負債・純資産の部を見ていくと、利益剰余金が61.7億円積み上がっています。
ついで大きいのが資本金+資本剰余金の48.3億円で、借入金はありません。
キャッシュフロー推移も確認していくと、営業キャッシュフローは安定的にプラスで、2018/3期は12.4億円稼ぎ出しています。
フリーキャッシュフローも営業キャッシュフロー同様にプラスで、2018/3期は11.5億円ほど積み上がっています。
2018/12/17時点の時価総額は190.6億円となっています。
そこから金融資産84億円を加味すると、企業価値(EV)は106.6億円となります。
これをフリーキャッシュフロー11.5億円で割ると、9.4年分の評価を得ていることがわかります。
最後に市場環境を見ていきます。
人材関係の事業をおこなう学情にとって最も重要なKPIである有効求人倍率を見ていくと、リーマショック以降右肩上がりに上昇しており、2017年は1.50倍となっています。
これは44年ぶりの高水準とのこと。
さらに、大卒の求人倍率に絞って見ていくと、2018年は1.78倍と人手不足な時代であることが改めて伺えます。
一方、15〜64歳の就業者数は2007年以降減少傾向にあり、2016年は5,673万人です。
採用需要は今後も高まり続けることが予想されます。
参考資料