今回取り上げるのはMVNO(仮想移動体通信事業者)など通信サービスを手がける「ベネフィットジャパン」(証券コード: 3934)です。
(公式HP)
ベネフィットジャパンは1996年、現在も代表取締役を務めるの佐久間寛氏によって設立されました。
インターネット機器の販売を皮切りに、創業から間もなくしてPHSの取次・販売も開始します。
営業力を武器に、携帯電話のサービス回線や衛星放送(スカパー)、モバイルUSENの加入取次などサービスラインナップを次々と拡充。
2008年には天然水宅配事業に参入、その翌年にソフトバンクモバイルの一次代理店資格を取得しました。
2014年からMVNO事業を開始し、自らも通信事業者に。
2016年にマザーズ上場を果たし、2018年3月に東証一部へ市場変更しています。
2014年以降に売上の減少が続いていましたが、18/3期は51.7億円に急増。
前年比で23.4%の増収を達成しています。
売上が減少していた時期も含めて営業利益率はグイグイと上昇しており、現在は10%以上の水準に。
収益性の向上には目を見張るものがあります。
彼らは一体どのようにして急成長を成し遂げたのでしょうか?
創業20年以上の歴史を持つベネフィットジャパンは、主に携帯電話回線の加入取次で業績を拡大してきました。
しかし、2014年のMVNO事業参入を機に実店舗を閉鎖。
他社回線の新規契約活動を停止し、現在は既存の回線契約のみが「加入取次」収益として計上されています。
現在はリソースを集中させたMVNO事業が急速な成長を遂げ、売上は40億円規模に達しています。
売上構成比はMVNO事業が90%を超えており、ベネフィットジャパンは主力事業の転換に成功したといえます。
彼らはMVNO事業を「ONLY SERVICE」というブランドで展開しています。
通信回線サービスを起点として、格安スマホ「ONLYスマホ」、モバイルWi-FI「ONLY Mobile」、固定回線「ONLY光」を販売。
端末に加え、セキュリティやデータのバックアップなど様々な付随サービスを提供しています。
格安スマホ「ONLYスマホ」の特徴は料金体系のわかりやすさにあります。
(ONLYスマホ)
月額900円〜1,600円の「ちょっぴりプラン(3GB)」、2,280円〜2,980円の「たっぷりプラン(7GB)」というシンプルな2つのプランのみを用意しています。
モバイルWi-FiではNTTドコモ回線「Xi(クロッシィ)」、2017年2月からはWiMAXの取扱いも開始しました。
2018年9月末時点の回線利用者数は5万人を突破し、ユーザーの増加ペースが徐々に加速しています。
プレーヤーが乱立しつつあるMVNO市場の中で、ベネフィットジャパンはどのように顧客を獲得しているのでしょうか?
彼らの競争優位となっているのは、創業から20年で培ってきた営業力にあります。
対面サービスを重視した「コミュニケーションセールス」を打ち出しており、実際に端末を触ってもらうことで商品の活用イメージを持ってもらい、顧客獲得につなげる狙いがあります。
ベネフィットジャパンがターゲットとするのは女性を中心としたITリテラシーがそれほど高くない層です。
大都市・家電量販店ではなく、地方のショッピングモールなどを販売チャネルとしていることも特徴的。
MVNOの競合企業は顕在顧客をターゲットとしているのに対し、ベネフィットジャパンは興味はあるけど触れる機会が少なかった「潜在顧客」を積極的に取り込む戦略で差別化を図っています。
回線を契約しているユーザーの9割以上は大都市以外に住んでいるとのこと。
女性ユーザーが70%を占めている点にも彼らの独自性が表れており、狙い通りの顧客構成になっているといえます。
さらに最近では商業施設とタッグを組んでクロスセルも強化しています。
イオンカードの発行も請け負い、そのまま回線契約に結び付ける施策も好調なようです。
MVNO事業へのシフトによってベネフィットジャパンのコスト構造は改善傾向にあります。
売上原価率が59.2%から20ポイント以上低下し、現在は38.9%まで改善しています。
一方、販管費率は主に代理店手数料の増加によって46.4%に増加しました。
バランスシートもチェックしてみましょう。
総資産46.2億円のうち現預金は1.9億円程度。
端末の販売に伴う「割賦売掛金」が36.3億円と資産全体の78%を占めています。
資産の調達元を見てみると、利益剰余金が23.6億円まで積み上がっています。
借入金の合計は6.3億円ほど。
営業利益が増加している一方、端末の分割払いによって売掛金が増加しているため、営業キャッシュフローはマイナスとなっています。
19/3上半期の業績進捗も確認してみます。
売上目標57.1億円に対する進捗率は51.0%、営業利益は8.4億円に対して50.3%と、いずれも順調に推移。
前年に続いて成長軌道に乗り始めていることが伺えます。
株価は2016年末からの上昇トレンドが一段落し、現在の時価総額は54.4億円となっています。
現金1.9億円と有利子負債6.3億円を加味した企業価値(EV)は58.8億円。
通期の営業利益目標8.4億円に対して約7倍という評価を受けている計算となります。
ベネフィットジャパンは長期的な成長イメージとして「会員数100万人」を掲げています。
通信回線契約のストック収益をベースに、スマホやモバイルWi-Fiといった端末販売による売上も拡大していきたいところ。
そこで彼らが注目しているのがサービスロボットです。
野村総研の調査によれば、道案内などを行なうような「サービスロボット」の市場規模は15年間で5兆円規模にまで拡大する見込み。
ロボットの稼働に不可欠な通信インフラとしてMVNOが登場するというわけです。
ベネフィットジャパンは2016年12月から、シャープが開発したコミュニケーションロボット『ロボホン』の販売を開始しました。
(ロボホン)
ロボホンは携帯電話とロボットが一体化した"話がわかるロボット"で、通話やロボホンとの会話が可能。
カメラやプロジェクターも搭載しており、専用アプリやスマホとの連携も強化しています。
端末代金は20万5,200円(月額5,700円×36回)、通信SIMは「ONLYスマホ」と同じ料金体系となっています。
ベネフィットジャパンは店舗でのイベント販売を積極的に開催しており、2018年9月末時点で利用者数は前年の約3倍にまで増加しています。
政府がMVNOを推進していることで競争が激化する中、ユニークな販売戦略で独自のポジションを確立したベネフィットジャパン。
ロボホンなど新サービスも積極的に導入している彼らのさらなる成長が非常に楽しみです。