今回ピックアップするのは遺影写真においてNo.1のシェアを誇る「アスカネット」(証券コード:2438)です。
創業者である福田幸雄氏が「アスカネット」設立に至るまでにはいくつもの苦労がありました。
地元・広島の高校を卒業後に大阪の私大に進学するも、退屈さに耐えきれずに2年で自主退学。
東京のファッションの専門学校に入り直し、卒業後は自身のショップを開きました。
しかし、わずか3年で倒産してしまったため、地元の広島に戻って心機一転フリーのフォトグラファーになります。
「何かほかの仕事はできないか」と模索する中で遺影撮影の仕事を受注した際に、福田氏は遺影写真のクオリティが低いことに気づきます。
そこで、飛鳥写真館を立ち上げ、遺影作成サービスを開始しました。
クオリティの高さが評判を呼び、広島各地の葬儀屋から注文が入るまでに成長。
1995年に現在のアスカネット株式会社を設立します。
1990年代後半に入り、写真はデジタルの世界へ移行し始めました。
もともとパソコン好きだった福田氏は、持ち前のプログラミングスキルを活かしてデジタル加工した遺影を日本中に送り届けるシステムを構築します。
さらに、写真を置いてボタンを押すと短時間でデジタル加工された遺影が届く「プリンタ」をメーカーとのタイアップで開発し、業績の拡大に成功しました。
近年の売上推移を確認してみます。
2018年4月期の売上は前年から8%増の59.0億円、営業利益は78億円前後で推移しています。
アスカネットの事業は「フォトブック」「遺影写真」が中核を担っています。
2018年4月期において、「フォトブック」の売上が25.2億円、「遺影写真」の売上が32.7億円あり、これらが収益の軸になっています。
「その他」の売上は2018年4月期において、1.2億円となっています。
最も売上の大きいフォトブック事業は、個人向け(BtoC)とプロ・企業向け(BtoB)に行なっています。
個人向け(BtoC)
(公式HP)
個人向けにオーダメイドの写真集を製作しており、料金は最も安いもので1400円から作成することができます。
写真の編集は、利用者がアスカネットの提供する編集ソフトを使って、自分で行います。
作成したデータをアスカネットに送ると、後日、オリジナルの写真集が送られていきます。
プロ・企業向け(BtoB)
アスカネットは一般の消費者と同様のサービスをプロのフォトグラファーや写真館に対しても提供しています。
また、ドコモの提供するプリントサービスのフォトブック及びプリント商品の独占供給も行なっています。
彼らはドコモの写真アプリに保存された写真の中から利用者が選択した写真を用いて、フォトブックを作成。
それを毎月利用者に届けるというサービスになります。
フォトブック事業の売上内訳を確認すると、BtoBの売上が最も大きな割合を占めています。
一方、BtoCの売上も4年間で2倍増加しています。
2つ目の柱である「遺影写真」事業も葬儀社向け(BtoB)と個人向け(BtoC)の遺影写真の作成を行なっています。
葬儀社向け(BtoB)
アスカネットは全国2,000以上の葬儀社とネットワークを結び、年間32.5万人の葬儀用写真を作成しています。
彼らは遺影写真のスキャン・プリントをするためのハード機器をエプソンと共同開発し、全国の葬儀社に販売・設置しています。
葬儀社のスタッフは写真をセットするだけで、スキャンから印刷まではアスカネットのスタッフがフルリモートで行います。
消耗品(インクや用紙)の販売によっても収益をあげており、プリンタ設置後の継続的な収益が見込めることも特徴です。
遺影写真の加工枚数は49.2万枚で、前年からは1万枚近く増加。
彼らは約30%のシェアを占める業界No.1の存在となっています。
遺影プリンタの設置件数も着実に増加し、今期は年間2,414件となりました。
個人向け(BtoC)
個人向けには「遺影バンク」と「遺影ラボ」の2つのサービスを提供しています。
(遺影バンク)
遺影バンクでは遺影の候補となる写真を預かり、クラウド上に保存することができます。
そして、利用者が亡くなった際には葬儀社へ遺影写真として提出します。
預かり料金や写真の保存料は無料で、料金は遺影写真が提供される際に発生します。
また、遺影写真に加え、遺書や亡くなったことを伝えたい人の連絡先などの管理もしています。
(遺影ラボ)
「遺影ラボ」では色褪せや破れで古くなった遺影写真を預かり、加工し、鮮明に蘇らせることができます。
白黒写真に着色することでのカラー写真への加工、破れや汚れの除去なども行なっています。
「その他」には、空中ディスプレイの開発・製造が含まれています。
アスカネットは、空中に映像を映し出すために必要な特殊なプレートを開発。
この特殊なプレートにより、SFの世界のものであった空中ディスプレイを現実のものにしました。
既に試作品は完成しており、現在は量産に向けての試作を行なっています。
空中ディスプレイは様々な利用シーンが想定されています。
空中ディスプレイは視野角が狭いため、液晶ディスプレイと違い、覗き見ができません。
この特性を生かし、銀行のATMのテンキータッチパネルなどへの利用が検討されています。
また、指紋や脂がつかず衛生的であるため、飲食店などでの利用にも向いているようです。
実用化も始まっており、既にBMWのコンセプトカーにも搭載されました。
国内外での展示会にも出展し、実物の公開を行なっています。
特に国外での反響が大きく、アメリカ企業からはマーケティング用途として、ドイツ企業からは組み込み用途としての問い合わせが殺到しているようです。
ここ数年、コスト構造は安定しています。
ただ、販管費が2012年4月期から2018年4月期にかけ、2.6%増加。
これは、空中ディスプレイ関連の研究開発費や広告費、販促費の増加したためです。
バランスシートについて確認します。
資産の源泉である負債・純資産の部を見ると、利益剰余金が41.1億円積み上げっています。
資本金と資本剰余金の合計は11.0億円。
自己資本率は88.4%になっています。
近年、営業キャッシュフローは安定してプラスを維持しており、2018年4月期は7.9億円でした。
フリーキャッシュフローも近年安定してプラスを維持しており、2018年4月期は3.0億円でした。
現在の時価総額は263.0億円。
現預金18.3億円を考慮すると、企業価値(EV)は244.7億円になります。
年間キャッシュフロー3.0億円に対して、81.6年分の評価を受けています。
アスカネットは今期も安定成長を掲げています。
2019年4月期の業績予想は売上高が59.0億円、営業利益は8.1億円です。
1Q時点の売上目標に対する進捗率は23.6%と順調に推移。
営業利益の進捗率は17.3%と少しばかり出遅れている印象です。
ただ、シェアNo.1の遺影写真事業を取り巻く市場環境の見通しが明るいことは確かです。
高齢化の進行で死亡者数も増加していく一方、会葬者(葬儀に弔問する人)の数は減少しています。
こうした中、顧客である葬儀社の間で競争は激化し、他の葬儀社との差別化を図りたいというニーズが高まっています。
アスカネットはこうしたニーズに応えるため、空中ディスプレイを用いた焼香台を開発。
新たな演出ツールの提供を積極的に行なっています。
さらにはITを活用(葬tech)した新サービス「tsunagoo」を開発し、時間のかかる葬儀の受付をスマホで行えるようにしたり、参列者リストの自動作成などを可能にしました。
時代にマッチした事業だけに、今後の新たなサービス展開も非常に楽しみです。
参考