中国の電気自動車は世界を制するか?世界最大の代替エネルギー自動車メーカーとなった「BYD」
BYD Co. Ltd. - H Shares

今回取り上げるのは、中国の電気自動車メーカー「BYD」です。

ホームページより、はしゃぐ王CEOとマンガー、バフェット、ビルゲイツ)

BYDは、「投資の神様」として知られるウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイが、2008年9月に2.3億ドルを投資したことでも知られています。

Nine years ago Warren Buffett bet on an unknown Chinese battery maker, and it’s sort of paying off

実際には、相棒のチャーリー・マンガー氏のアイデアだったようですが、その後の株価は一時的に大きく上昇し、一旦クラッシュした後に再び上昇を続けています。

ロイター

バークシャーは現在でもBYDの株式を2億2500万株保有し続けており、2億3200万ドルで取得した株式が2017年末時点で19億6100万ドルの市場価値となっています。

2006年からの業績推移を見てみます。

2006年の売上は129億元(2148億円)でしたが、2016年には1002億元(1.67兆円)と、業績も実際に大きく成長しているようです。

2016年の年間販売台数はおよそ96,000台で世界一と、テスラの76,230台(2016年)よりも大きくなっています。

今回のエントリでは、「BYD」という会社がどんな会社なのかを知るために、BYDの歴史や決算数値、中国における自動車産業の背景についてまとめてみたいと思います。



BYDの歴史

まずは、BYDがたどってきた歴史を軽くさかのぼります。


1995年2月、資本金250万元と20名のメンバーと共に、BYDが設立されました。

創業者のWang(王) Chuanfu氏は中国の政府系研究機関(Beijing General Research Institute of Nonferrous Metals)で働いたのち、BYDを29歳の時に設立。携帯機器用のバッテリーの製造を開始します。


1998年には海外拠点をヨーロッパに、2000年には工業団地(Industrial Park)として「Kuichong Industrial Park」を設立するなど、順調に事業を拡大。

同じく2000年にはモトローラ、2002年にはノキア向けのリチウムイオン電池のサプライヤーとなり、協業を開始します。

2002年7月に香港証券取引所のメインボードに上場すると、2003年に自動車会社「Xi’an Tsinchuan Auto Co., Ltd.」を買収。これが現在の自動車部門「BYD Auto Co., Ltd.」となります。

2005年9月には自動車「BYD F3」がヒットすると、2008年9月にはミッドアメリカン・エナジー(現・バークシャーハサウェイ・エナジー)がBYDのH株を2億2500万株取得。

2008年12月、世界初のデュアルモード電気自動車「BYD F3DM」が発表され、深セン市を中心にヒットします。

2010年にはドイツの自動車メーカーであるダイムラーとの合弁会社「Shenzhen BYD Daimler New Technology Co., Ltd.」を設立。


2014年10月には、BYDが50億元を投じて開発したモノレールシステム「SkyRail」が公開され、数兆元規模と言われる中国の交通手段マーケットへの参入を表明。

SkyRailは2017年に中国の北西部で初めて稼働を開始しているとのこと。

BYD’s First Commercial SkyRail Line Launched in Northwest China


BYDの売上高の内訳:バッテリーから始まり、自動車が拡大

充電池メーカーとして事業を開始したのち、自動車、そして鉄道と事業を広げてきたのがBYDであることがわかりました。

売上高の内訳を見てみます。

2014年以降、電気自動車(Automobiles and..)の売上高が263億元(4390億円)から550億元(9181億円)へと倍増しています。

その他、充電池と光電池(Rechargeable batteries..)の売上が71億元(1185億円)、モバイル部品と組み立てサービス(Mobile handset..)が380億元(6343億円)と大きな売上を上げています。


地域ごとの売上高も見てみます。

充電池が事業の中心だった2007年までは海外の売上が大きかったものの、電気自動車の製造を本格化した2008年以降は、一貫して中国国内の売上が多くを占めています。


財政状況とキャッシュフロー

続いて、資産の状況を見てみます。

2016年末の総資産は1450億元(2.4兆円)あり、そのうち現金同等物は71億元(1185億円)ほど。

有形固定資産が420億元(7011億円)とかなり大きくなっています。


資産の源泉を表す負債と自己資本の項目を見てみます。

有利子負債(Interest-bearing bank and other borrowings)が423億元(7061億円)、剰余金(Reserves)が447億元(7461億円)とそれぞれ大きくなっています。


ここで、BYDの企業価値(EV)について考えてみます。


BYDの株式時価総額は1724億元(2.9兆円)。前述したように有利子負債が423億元、現金同等物が71億元あるので、EV(企業価値)は2076億元(1724 + 423 - 71)と計算できます。

日本円だと3.47兆円ということになります。


キャッシュフローの状況も見てみます。

意外にも営業キャッシュフローは潤沢とは言えず、2016年にはマイナス18.5億元(309億円)となっています。

そして、投資キャッシュフローはここ2年では100億元(1669億円)以上を投資。足りない現金は財務活動(借入など)によって補う、という形になっています。


設備投資とフリーキャッシュフローの状況です。

多くの年で30億元から60億元を有形固定資産に投資しています。

これを超える営業キャッシュフローを稼がなくては、BYDのフリーキャッシュフローがプラスになることはありません。


中国におけるエコカー販売台数はうなぎ上り

決算情報を見る限り、BYDは現時点でも優良企業とは決して言えません。

バークシャーハサウェイは、何に可能性を感じてBYDに投資したのでしょうか?


BYDは2016年に次のようなリリースを出しています。

Who Sold The Most Plug-In Electric Cars In 2015? (It's Not Tesla Or Nissan)

「2015年に電気自動車の販売台数が最も大きかった会社はどこか?」という話で「それは日産でもテスラでもなく、BYDだ」と結論づけています。

それによれば、2015年にBMWはおよそ3万台の電気自動車を販売しており、フォードはおよそ2万台、日産は5万台、テスラは50,557台を販売したとのこと。

そして、BYDは2015年に「Qin」を31,898台と「Tang」を18,375台販売し、合計で61,722台販売。世界最大となったとドヤっています。


どうして、BYDは比較的短い期間でここまでの販売台数を達成することができたのでしょうか?

それには、中国の自動車産業における特殊な市場環境があるようです。


中国における自動車産業の成長と大本営によるEV優遇

中国は、2001年にWTOへの加盟を果たして以来、マイカーブームを迎えました。

2001年から2009年までに、中国での自動車販売台数は236万台から1300万台へと大きく増加。

2017年には2888万台と、さらに2倍以上に増加し、自動車メーカーにとって世界最大の市場となっています。


その一方、多くの人がご存知のように、交通渋滞や環境汚染が中国の都市部で深刻化しました。

また、既存の自動車産業では日本やアメリカが強かったため、中国企業が優位なポジションを占めるのは容易なことではありません。

そこで2008年に中国政府は、電気自動車産業によって市場をリードしていく方針を発表します。

China Vies to Be World’s Leader in Electric Cars (2009/4/1)

2008年以来、代替エネルギーを用いた自動車(ハイブリッドや電気自動車)に対して中国政府から補助金が出されるようになります。

この事実がバークシャー・ハサウェイがBYDに投資する上でも大きなポイントになったのではないでしょうか。

実際、中国における電気自動車やハイブリッドカーの販売台数は急速に数を増やしています。

3000万台に迫ろうとしている全体の自動車販売台数と比べるとはるかに小さいものの、2016年には50万台を突破し、2013年の1.76万台と比べると3年で30倍近くに増えています。


また、BYDの損益計算書には特別利益として政府からの補助金が計上されています。

2008年以降、年間3億元(50億円)から8億元(133億円)ほどの補助金が出ています。


中国政府は、2017年にもエコカーの新規制を発表するなど、世界中を巻き込んでEV化を推進しています。

中国のエコカー新規制、外資が対応苦慮 19年から義務

その中では、2019年から外資に電気自動車を造らせることを義務付けるとのこと。

このニュースは「販売」ではなく「生産」を義務付けるというところがポイントで、外国企業が電気自動車の生産拠点を急いで建設することが求められています。

それが満たせない場合は他のメーカーから「クレジット」を購入すれば良いとのことで、そうすると現実的には中国のEVメーカーから購入することになります。

批判の多い制度ではあるようですが、中国政府には、厳格な法規制によってインターネット産業を大きく育てたという実績があります。

今回の対応も、今後の産業においてどのような影響を及ぼすのか。とても重要なトピックだなあと思いました。