日本で夫婦の5.5組に1組が経験し、4月に保険適用も始まった不妊治療。受診のハードルは下がったが、拘束時間や精神負荷から、治療する女性の約2割が離職を余儀なくされている。
5月に開院した「トーチクリニック」(東京都渋谷区)は、生殖医療の根本課題の解決にデジタルトランスフォーメーション(DX)で挑む。治療データを独自で蓄積し、最適な治療法も割り出せる次世代の生殖医療施設を目指す。
大学病院や国際学会で稀有な実績を残しながら、飛び出して開業に踏み切った市山卓彦院長に目的や展望を聞いた。
日本の平均初婚年齢は2021年に夫31.0歳、妻29.5歳。晩婚化の傾向にある一方で、出生数は同年84万3000人と40年間で60%減った。35歳前後から自然妊娠率は下がり、流産の発生率が高まるとされる。
WHO(世界保健機関)の推計では、不妊症のカップルは世界で4800万組、個人だと1億8600万人。厚生労働省によると、日本は夫婦の5.5組に1組が不妊の検査や治療を受けた経験がある。「高血圧や糖尿病のようにありふれた病気になった」(市山氏)
体外受精など精子・卵子や受精卵を体外で扱う生殖補助医療(ART)の件数は1990年代から右肩上がりで増え、2015〜2019年は月経周期ベースで計約45万周期。世界で最も多い水準で、ARTが活発な米国の2倍以上の規模だ。
しかし国際非営利団体のICMART(ARTモニタリング国際委員会)のレポートによると、日本でのARTによる妊娠率は約 10%と最低の水準にある。米国(約40%)やドイツ(約30%)など先進国と比較しても差が大きい。
この背景について、市山氏は「日本は特に40歳以上が多く、全体の半分近い」ことを挙げる。その上で、①専門医師の不足、②情報不足、③患者の顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)の低さが根本にある原因だと指摘する。