創業メンバーの採用実績も!スローガンはどのようにベンチャー就職市場を開拓したか
スローガン


厳選就活プラットフォーム「Goodfind」でサービスを開始して以来、「新興成長企業×新卒採用」という新しい市場を創出してきたのが人材支援企業のスローガンだ。

かつては有名大学の学生は名のある大企業に就職するのがステータスであった。しかし今では、成長するベンチャー企業を志望する学生も増えている。転職市場はなおのことだ。

職業紹介市場は5,832億円(2020年)という一大マーケットだ。当然、紹介事業者数は年々増加している。

そんなレッドオーシャンで業績拡大を続けるスローガンのサービスは、マーケットでどのように差別化してきたのか。

今回は、スローガンCEOの伊藤豊氏や幹部へのインタビューを通じて、スローガンの成長の源泉となる「強み」を解説する。

ベンチャー特化型エージェントとして成長

スローガンは、2006年に創業。「人の可能性を引き出し才能を最適に配置することで新産業を創出し続ける」をMissionに掲げる。

ベンチャー企業を中心に新産業領域の企業の新卒採用サービス「Goodfind」を収益基盤とし、社会人向けのベンチャー・スタートアップ求人特化型エージェント「Goodfind Career」などキャリアサービス分野や、若手イノベーション人材向けビジネスメディア「FastGrow」などメディア・SaaSにもサービス範囲を広げて成長してきた。

2021年2月期本決算では売上高13.1億円。学生向けサービスのビジネスモデル変更により減収となったが、営業利益は4,200万円を確保した。2022年2月期は売上高13.9億円、営業利益1.8億円の予想だったが、1月に売上高14.3億円、営業利益2.5億円へと上方修正。前期からの大幅増益を見込む。

売上比率では、約8割となるキャリアサービス分野が主力事業となる。メインサービスとなる「Goodfind」は“厳選就活プラットフォーム”をうたう。

利用者となる学生にとっては単なる就活ナビサイトではなく、「成長のためのプラットフォーム」となるよう、厳選された優良企業の紹介を行うことを徹底。会員登録は無料で、個別面談によるキャリア相談も可能だ。登録している学生や卒業生のプールは数万人規模となっている。

採用支援は人材紹介モデル、送客モデル、スカウトモデルという3つのビジネスモデルが主流で、そのどれかに強みがある企業が多い。しかしスローガンは現状、挑戦意欲の高い優秀層の強いグリップを起点としたユニークかつ強固なデータベースをもとに、前者2つのモデルをかけ合わせ、企業に対して個別最適化した採用支援を行っているのが大きな特長だ。

そうした背景から、顧客単価は年々上昇。2022年2月期には、1社あたり309万円に達する見込みだ。こうしたサービスは今でこそ競合が登場しているが、創業当時は小さなエージェント企業しかなかった。市場がなかったのである。

新卒時の「選択ミス」が原点

スローガン代表の伊藤氏は新卒学生とスタートアップをつなげるという発想で「Goodfind」というサービスを立ち上げた。 これには、伊藤氏の就職活動が原体験にある。

伊藤氏は2000年に日本IBMに入社した。その理由は2つある。一つは、自分が伝統的な企業に合わないだろうと思ったこと。もう一つは、ITに苦手意識があったものの、「ITが世の中を変える」と言われていたことから、今後ITが重要になってくると予想したことからだ。

当時はリクナビやマイナビなどの就活メディアが全盛期。企業の採用情報はそこから入手するケースが主流だった。伊藤氏も同様にそこから就職したわけだが、入社後すぐ、自分の選択が失敗だと気づいた。

ITが伸びると思って飛び込んだ日本IBMの業績は2001年にピークアウト。ITは確かに成長市場だったが、伸びていたのはYahoo!やGoogleのようなネット系のIT企業であって、従来からあるエンタープライズ向けシステム開発市場のIT企業ではなかった。「就活のときに『IT』をもっと深く理解していたら」と後悔した。

もう一つの誤算は、日本IBM出身者がさまざまな外資系企業のエグゼクティブに転職していたため、自分も将来は同様のキャリアの道があると思い込んでいたことだ。

しかし、そうしたキャリアを歩んで、外資系企業にヘッドハンティングされているのは日本IBMの黎明期に入社し、会社を作り上げてきた人たちだった。

「人材輩出企業」と言われる会社はあるが、じつは輩出するフェーズがある。会社のブランド・実績が発展途上の黎明期に非常に難易度の高い仕事をやっていた人たちは洗練され、高いスキルを持つ人材となっていく。

会社が巨大になり、立派な会社になった頃に新卒として入ってきた自分は、そのフェーズの人間ではない。こうしたことを学生のうちに知っていたら、キャリアの作り方は変わったはずだ――苦い経験から、伊藤氏はキャリアトラックの“隠れた真実”を知ることになる。

もともと伊藤氏には起業願望はなかった。しかし、日本IBM時代にベンチャー企業への出向や週末起業を経験し、ベンチャー企業にとって人材採用が困難な現実も目の当たりにする。そして28歳で日本IBMを退社し、スローガンを立ち上げた。

「ベンチャーの目利き」で成長

2006年、伊藤氏は新卒学生向け就活プラットフォーム「Gooodfind」の運営を開始した。自分が新卒だったころを振り返り、学生たちに会社を見極めてほしいと思ったことがサービスの出発点だ。

(創業時の写真)

当時もベンチャー企業の掲載を行っている就職情報サイトは存在したものの、掲載企業は玉石混交だった。あるとき伊藤氏は学生からこんな話を聞く。

「とあるサイトを見てベンチャー企業のイベントに行ってみたら、ブラック企業のようなひどい会社ばかりだった」

ベンチャー企業に興味をもって、当時市場に出ている情報を基に探してみてもなかなか良い企業に巡り合うことができず、就活過程で興味を失う学生が存在していたのだ。

「ベンチャー企業というカテゴリの中で、しっかりと良い会社を選別し、魅力的な会社であることを学生に伝えないといけない。目利きをして『ベンチャー企業』というカテゴリを育てるというのが、最初の着眼点でした」(伊藤氏)

とはいえ、当時の伊藤氏にベンチャーの目利きのスキルはない。とにかく自分の足でいろんな会社を訪問し、たくさんの経営者に会いにいくことにした。

訪ねてみるとマンションの一室だったり、サングラスの強面経営者が出てきたりすることもあった。また、立派なWebサイトがある会社でも、行ってみないと実態はわからない。会ってみると傲慢に思える経営者もいた。ベンチャー企業を訪問すればするほど、人を大事にする経営者かどうかもわかるようになってきた。

一方、学生のほうは口コミで集まってくるようになった。彼らに自信を持って紹介できるベンチャー企業はどこだろう、と会社を厳選し続けた。伊藤氏が自分で足を運んだ企業は、年600社に上ったという。

「Goodfind」は当時から採用支援が収益源だったが、初めのうちはフリーペーパーによる記事広告も行っていた。これがのちにブレークスルーとなる。記事広告のクライアントから、「採用の支援もしてほしい。学生を何人か連れてきてくれないか」と声がかかるようになったのだ。そこから、学生の送客フィーを企業から受け取るようになっていった。

(当時のフリーペーパー)

次第に、サービスを通して新卒の学生を紹介していたベンチャー企業から、「有名大学の学生が採用できるようになりました」といった声が届くようになった。「そんなに良い学生が採れるのか」とベンチャー企業の間で噂が広がり、2012年ごろから一気に売上が伸びていった。

自社の中途採用で行きづまる

実をいうと、ベンチャー×新卒採用というジャンルは、時間がかかるわりにあまり成約しない難しい市場だ。ただ、そうした背景もあり、競合はさほど生まれなかった。

一方、大手企業出身者でベンチャー企業への転職を希望する人々の転職市場は、新卒よりも大きい。そのため、競合は多いものだと思い込んでいた。

しかし、スローガンの社員が30人規模になったとき、その認識が覆された。中途採用を始めようとさまざまな転職エージェント企業に相談したが、全く手伝ってもらえなかったのだ。

エージェント企業側からすれば、ベンチャー企業は規模が小さく、事業リスクも大きい。そのうえ、何をやっている企業なのかよくわからないことも多く、採用候補者に伝えるべき魅力が伝えにくい。そうなると、案件としては注力しにくくなってしまうというわけだ。

そのうえ、数少ないベンチャー特化型の小規模エージェント会社には、「スローガンは競合だから」と支援を断られた。「これは自分たちでやるしかない」――そこで立ち上がったのが、中途採用向けの「Goodfind Career」だった。

新卒採用と中途採用の大きな違いは「ジョブハンティングのタイミング」だ。新卒は就職のタイミングがどの学生もほぼ同時だが、中途は違う。「転職を考えていない」といった人が、3か月後に転職活動をしているということはままある話だ。そうすると、いかにその短い期間にサービスを想起してもらえるかが重要になる。

ただ、中途求職者の中には、「新卒のときに『Goodfind』のお世話になりました」という人もいる。

同社Growth Advisrory事業部部長で、「Goodfind Career」の立ち上げにかかわった北村貴寛氏いわく、「『Goodfind』の提供するサービスが、学生と深い関係性を持つことを重要視していることもあり、新卒として就職したのち、新たなキャリアへのチャレンジを検討する優秀な若手が『Goodfind Career』にキャリア相談にいらっしゃるケースが多かった」のだという。

他方、ベンチャー企業からは、「大手エージェントからはなかなか良い人を紹介してもらえない」ということで連絡をしてくれるようになった。どこもスローガンと同じような状況だったのだ。

良い会社の見つけ方

「Goodfind Career」の強みは、会社として16年間ベンチャー・スタートアップ業界を見つめ続けてきたことだ。動きの早い業界の中に長く身を置いていれば、シリアルアントレプレナーは何度も創業し、「以前お世話になったから次の会社でもお願いします」と連絡が入るようになる。

また、起業家にならなくても、ベンチャー界隈の経営幹部クラスや、人事・採用担当は人材の流動性が高い。そのため、人材採用のときに、一度スローガンと取引があれば、転職した先でも声をかけてくれる。そうした理由から、創業から浅い企業のものでも、早く案件が回ってくるのだ。

VCからの調達以前のスタートアップは、経営資料もないような状態であることが多い。しかし、その段階でも人材を採用したい企業はある。

その結果、将来有望なベンチャーの情報は、資本市場よりも先に人材市場に流れてくるケースもある。たとえば一度もVCなどからの外部資本調達をせずに上場したSpeeeは、創業1期のころからスローガンが採用支援を行っている。

中には創業メンバーの採用に関わることもある。

電気バイクベンチャー・テラモーターズ創業時のことだ。経営陣の一人である徳重徹氏が、創業前に伊藤氏のところに新聞の切り抜きを持って、「電動バイクの会社を作るので手伝ってくれ」と伊藤氏のもとにやってきた。そのときに、Goodfind Career経由で入社した人材は、のちに徳重氏が創業したテラドローンの取締役になった。

ベンチャー企業内のエコシステムに入り込んでいるからこその案件である。転職希望者からすれば、「創業メンバー」になるチャンスが生まれるのだ。

もう一つの強みは、リアルな口コミが集まる点だ。「Goodfind」などのサービス利用者が、インターン先や面接などでの訪問の時に知ったベンチャー企業の内情に関する情報が社内に蓄積されていく。

中には、「今働いている会社がひどすぎる」と駆け込み寺的に逃げ込んでくる人もいる。メディアへの露出が多く、一見優良そうな企業が、じつは張りぼてに過ぎないというケースもあるという。

「悪い会社に候補者を送ることは、悪事の片棒を担ぐのと同じこと。私たちは絶対にしたくない」と伊藤氏は断言する。

社会人なら転職先選びは自己責任の側面もなくはない。しかし、新卒の場合、エージェント側の責任は重大だ。スローガンは新卒採用に関わってきたからこそ、企業側を慎重に目利きすることを徹底してきた。

長年のネットワークを生かした社外とのコミュニケーションや、徹底した社内での情報蓄積・共有・研修によるインプットや日々の自己研鑽などはもちろんのこと日々の業務の中でも磨かれているようだ。「目利き力は新卒への面談によっても鍛えられる」と北村氏は持論を述べる。

学生という「働いたことのない人」や、ベンチャーへの初めてのチャレンジを考えている転職希望者のポテンシャルを推し量るのはとても難しい。そのため、その人の学生時代の経験や職歴のみにとどまらず、時には幼少期の経験まで掘り下げてヒアリングすることを心がける必要があります。

そのスキルを初めてお会いするベンチャー企業のヒアリングにも応用すると、「話している内容から、本当に誠実に事業に向き合おうとしている方なのかや、会社でともに働くメンバーをリスペクトするような方なのかを見極める力がつくようになります。」(北村氏)。

「Goodfind Career」では、企業側も転職希望者側も一気通貫で担当する、両面型のエージェントスタイルをとっていることも大きな特徴だ。企業側の事業戦略や紐づく採用の背景やニーズへの理解も深いメンバーが、転職者の経験や意向を丁寧に汲み取りながら、最適なキャリアプランを築き上げ、適切な企業へとマッチングをしていく。

伊藤氏は、自分たちを「セレクトショップのバイヤー」と説明する。セレクトショップは、バイヤーが厳選した商品だけを店に並べる。同様に、スローガンは厳選した企業しか学生や転職希望者に紹介しないのだ。

担当者が企業を「応援したくない」と思っている場合は、結果が出ない。候補者に対して魅力付けができないからだ。

「完全に“業者”扱いしてくるような、高圧的な会社の案件があった時、うちの社員には、『その会社は支援しなくていいよ』と言っている。一事が万事で、私たちへの接し方が誠実でない会社は、候補者に対しても不誠実である可能性が高い。求職者に紹介する前の段階でかなりスクリーニングされている」と伊藤氏は話す。

また、現場でもその姿勢は徹底されている。「業界全体を見たときの給与水準は改善されつつある。とはいえ、個社ごとに報酬に関しての考えは千差万別である上に、そもそも『ベンチャー企業はハードワークである』というバイアスがかかっていたりする。だから、それらを乗り越えてでも『あなたはここに行くべきです』と推せる企業でないと、選考につながらない」(北村氏)

目指すは“Goodfindアルムナイ”

スローガンは事業拡張を続けているが、そこには伊藤氏の「目指すは『スローガンオール』」という思いが背景にある。社内連携を強め、スローガンのサービスを触った人を取りこぼさず、スタートアップ熱を高めて回帰してもらう―いわば、“Goodfindアルムナイ”である。

「Goodfind」の一学年の利用者数は2万人規模。累積では15年間で16万人規模(2021年6月集計時点。2022年03月までに卒業予定の方を含む)。とはいえ、ベンチャーを志向しても、新卒では大企業に行く人も多いため、実際にはベンチャー企業に就職しなかった学生の方が多い。そうした学生が、転職活動でベンチャーに戻ってくることも多いわけだ。

大手のエージェント企業では、初回に求人票をまとめて10社、20社と求職者に渡すことがある。しかし、スローガンでは、しっかりヒアリングした上で、希望に合致する可能性のある3、4社を提案することが多い。場合によっては1社も提案しないこともある。

伊藤氏は「紹介した時点で『これがあなたに合っている』とセレクトしている。レコメンドするときに、信念をもってやっている」と率直に話す。その人に合っていないと思えば、求人票を一つも渡さないという徹底ぶりだ。

これは、スローガンの社内評価軸が、一般的なエージェント企業と異なることも影響している。

業界では紹介候補者が選考に進んでいる進捗数をKPIにしていることが多い。つまり、面談をしたエージェントは、相手にとにかくどこかへ面接に進んでもらわないとノルマが達成できないわけだ。

しかしスローガンでは、むやみに提案数や選考の進捗数を追いかけることよりも、求職者の本質的なニーズに応えることに重きを置き、満足度指標を重要視している。面談をした時の候補者の満足度に重きを置いて、社員を評価しているという。

「他社のエージェントと話したときに『ベンチャーは自分とは合わない』と思った人でも、ぜひうちでちょっと話してみてほしい。『他で紹介されたときはよくわからない会社だと思ったけれど、ここに来てどういう会社か初めて分かった』という声は、実際の面談ではかなり多いんです。ベンチャー企業に対する見方が変わるかもしれない」(伊藤氏)

Goodfindの取引社数は245社、うち188社がDX・SaaS関連企業だ。非上場時代に新卒採用に関わり、その後上場した企業も多い。スローガンは“Goodfindアルムナイ”というエコシステムを目指し、挑戦を続けている。

今後もスローガンは、ベンチャーキャリアを志す人のキャリア支援・転職支援を積極的に行っていく。ベンチャー転職を検討している人ならば、Goodfind Careerを利用してみるのもよいのではないだろうか。