「個別指導学院サクシード」を運営するサクシードが12月22日、東証マザーズへの新規上場を果たした。
サクシードはユニークな事業モデルをもつ企業だ。個別指導塾を運営する一方、教育・介護にまつわる人材サービスも展開。人材と塾経営の両輪によって、コスト効率を高めている。
コロナ禍にあっても売上の拡大を続け、2022年3月期には25.8億円(前年比30%増)を見込む。営業利益は4.0億円(同53%増)を予想するなど、収益性も高めている。
教育サービスと人材サービスの両輪で成長するサクシードとは、一体どんな会社なのだろうか。今回の記事では、その事業モデルを中心にご紹介する。
サクシードは2004年に設立、「個別指導学院サクシード」を開校した。個別指導とはいっても一対一ではなく、「生徒三人に講師一人」というモデル。講師の人件費効率を高めることで、低料金を実現した。
現在も社長を務める創業者、高木毅氏は金融機関出身。2004年ごろは景気低迷期であり、次世代を担う人材を育成することは日本社会において重要であるという考えのもと起業した。
やがて展開したのは「人材サービス」だ。待機児童、教員の過重労働、介護離職といった社会課題を解決したいというのがその動機だという。
2007年には家庭教師の派遣事業、塾業界向け人材紹介・派遣事業をスタート。その翌年には求人サイト「教えるシゴト」の運営も開始した。
2014年には保育士の人材紹介・派遣業にも進出。転職支援サービス「保育Aid(エイド)」をスタートした。保育業界向けでは、さらに2017年に求人サイト「保育R」の運営を開始している。
介護領域では2015年から人材紹介・派遣業をはじめ、2017年より転職支援サービス「しろくま介護ナビ」のサービスを開始。
そのほかにも日本語教育の受託事業、学内塾(校内塾)の運営受託(ともに2018年)、学習塾付き学童クラブ「ペンタスkids」を開校、オンライン家庭教師サービス、オンライン日本語レッスンサービスの開始(ともに2020年)など、幅広い展開を見せている。
サクシードが展開する事業は、大きく「教育人材支援」「個別指導教室」「福祉人材支援」に分かれる。教育人材支援サービスには、家庭教師の紹介も含まれる。
個別指導塾の運営では、『個別指導学院サクシード』の直営教室を22教室展開。『学童クラブ ペンタスkids』を1教室運営している。
個別指導では前述したように「1:3」での指導形式が低コストを実現できる理由となっている。加えて、自社で人材サービスを行なっていることも、講師の獲得コストを低減させることにつながる。
業界では、講師不足を大きな悩みとする塾が多い。サクシードでは人材の一括募集が可能であるほか、インターネットなどを活用することで多彩な学歴・経験をもった講師が在籍。幅広いニーズに対応できるという。
『家庭教師のサクシード』ブランドも展開する。ここでは従来型の対面指導に加え、インターネットを使ったオンライン指導も行う。2021年3月期はコロナ禍でも売上11%成長を実現した。
特長としてアピールするのは、問い合わせの一括対応による高い入会率。テレマーケティング部門を本部に設けているほか、オンライン家庭教師によって拠点をおかずに全国展開が可能となる。
実は、学習塾・予備校市場における受講生数は2005年に比べて増加傾向にある。学習指導要領の改定で、「脱ゆとり」教育への転換が2008年から進み、学習塾ニーズが高まったことなどが要因とされる。
2020年度の学習塾 受講生数は1,362万人。「シックスポケット(両親・両祖父母の経済的なポケット)」により、子供一人あたりの学習塾費も増加傾向にある。
サクシードとすれば、教室あたりの売上を維持向上しつつ教室の数を増やしていくことが個別指導塾事業の成長につながる。そして家庭教師事業では、生徒あたりの平均単価と生徒数の掛け算が、売上拡大に寄与する。
サクシードの教育事業を「裏から」支えるのが人材サービスだ。『教えるシゴト』『学校教員ターミナル』など幅広い募集媒体を自ら運営しており、塾講師から学校教員、部活動の運営受託まで様々な職種に対応する。
興味深いのが、これらの募集媒体のほとんどがシンプルな「LP(ランディングページ)」として展開されていることだ。
例えば「学校教員ターミナル」の場合、「いろんな求人があるよ」ということが上部でアピールされ、すぐに登録(カンタン!30秒で無料登録)を促される。登録すると、専任コーディネーターが2営業日以内に連絡。その後、求人情報を案内するという流れだ。
求職者の担当とクライアントの担当は同じスタッフが行い、マッチング率や入社後の定着率を高めるとする。2021年3月期は減収となったが、今期は大幅な増収を見込んでいる。
同様のアプローチは、福祉人材支援サービスとしても展開する。保育・介護施設、地方自治体を対象としており、ここでも多数のLP(ランディングページ)を運営。2021年9月末時点でのサイト数は38サイトにのぼる。
サクシードでは、これらの人材サービスを「人材派遣」「人材紹介」「受託」という三つのモデルで展開する。人材派遣・受託なら単価と稼働人数、人材紹介なら採用単価と採用決定人数が売上を構成する要素となる。
2021年3月期の実績では、割合として一番大きいのは「人材紹介」で59%。「人材派遣」は27%、「受託」は14%の割合を占めた。
サクシードが自社の強みとしてアピールするのは、教育・人材の両事業を同時に行うことによるシナジー効果である。教育とはすなわち「人」であり、教える人材をなるべく多く集めておき、社内外で活用するモデルは理にかなっている。
特徴的なのが、人材を募集するためのLP活用モデルだ。社内のマーケティングチームがオウンドメディアやLPを機動的に制作し、応募を最大化する。例えば社内の営業スタッフが「新規登録を1.5倍にしてほしい」と言うと、SEO対策や広告運用などのスキルを駆使してサイト改善にあたる。
サクシードの事業全体を伸ばしていくにあたっては、教育に関わる人材募集を効率的に拡大していくこと、その活用先を増やしていくことの両輪が必要となる。
まず教育サービスでは、個別指導教室の出店エリアを拡大。ここでは「ドミナント戦略」を掲げ、まずは神奈川県内を中心に出店。今後は東京、千葉、埼玉へとエリアを拡大するという。
出店にあたっては、現実的な問題として不動産会社との関係性も重要になる。エリアを広げるには、神奈川県以外の不動産会社とのネットワークを強化していくことが重要となってくる。
家庭教師事業では、生徒数を年に15%ずつ増やしていくことを目標にする。今期見込みは1,217人。講師集めが不要な「オンライン家庭教師」に注力することで、全国的にサービスエリアを拡大する戦略だ。
人材サービスでは「公民連携事業」への参加を積極化する。入札に関する情報収集を強化し、受託実績を積み上げるほか、自治体や学校法人とのコネクションがある協業先とのネットワークを強化する。今期の売上は3.4億円を見込むが、今後は年20%ずつの拡大を目指す。