先日IPOしたばかりの「ツクルバ」が2019年7月期決算を発表しました。
まずは全体の業績を見てみましょう。
売上高は15億1,500万円(+185%)、営業利益も1,900万円(前年は▲4.85億円)と、見事に黒字化を果たしています(グラフは経常利益)。
驚くのは、売上の拡大率です。近年の新規上場企業の中でも、売上が前年の3倍近くに伸びる会社というのはなかなかありません。
今回のエントリでは、ツクルバ の高成長がどのようにして実現されているのか、決算書類をまとめてみたいと思います。
ツクルバの成長を牽引しているのは、2015年からスタートした「カウカモ(cowcamo)」事業です。
売上・売上総利益ともに右肩上がりの拡大を続けており、直近Q4ではそれぞれ3.43億円、2.82億円に達しています。
全体の売上成長は3倍近くと書きましたが、カウカモ事業に限定すれば、3.6倍もの高成長です。
プラットフォーム上の取引金額である「GMV」を見ると、4Q19には46.8億円。ざっくり計算すると、毎月15億円から20億円ほどが取引されていることになります。
「カウカモ」サイトを見る限り、一件あたり大体4,000万円から8,000万円の物件が多いようです。
決算説明資料によると、2019年7月期の取引件数は約380件。それで年間GMVは約178億円なので、一件あたりの平均値は約4,684万円ということになります。
カウカモ事業は、中古マンションやリノベーション物件を「買うかもしれない」という層に対して、物件の情報をストーリー立てて提供し、ハラが決まったら、そのまま申し込めるというプラットフォームです。
そのため、事業を伸ばし続けるために最も重要なのは「会員MAU(月間アクティブユーザー)」、すなわち毎月どのくらいのユーザーが「カウカモ」というサービスを使い続けているかという点です。
使い続けてさえくれていれば、そのうち一定割合の人たちが、カウカモ上で物件を購入してくれます。「会員MAU」「MAUあたりの成約率」「成約あたりの単価」の掛け算によって、カウカモの「GMV」という数値が作られているわけです。
会員数の伸びを見ると、直近四半期では10万人を突破。そのうち4.1万人が月間アクティブユーザーとなっていることがわかります。
今後のツクルバにとって重要なのは、「カウカモ」という事業がどこまで伸びていくかという点です。
決算資料の中にあった「成長の方向性」に関するスライドを見ても、カウカモ事業が今後の成長を牽引していくことが明記されています。
ツクルバ社によると、カウカモ事業はまだまだ拡大フェーズのため、獲得した売上総利益を、財務規律を保てる範囲で再投資することで、トップライン注力していくことを示しています。
今期、ツクルバは営業黒字化を果たしていますし、決算短信の来期予想を見ても、「営業利益以下の各段階利益については黒字化を見込んでおります」と記載されています。
つまり、基本的な方針としては、営業利益はギリギリ黒字を狙いつつ、トップライン拡大のために最大限アクセルを踏んでいく、というわけです。
カウカモ事業において「トップライン」と言った時、重要だと思われるのはGMV(流通総額)です。
一人当たりの物件購入単価を大きく上げるというのは現実的ではなさそうですから、重要なのは「会員数」「会員MAU」を右肩上がりに伸ばし続ける、ということになります。
そもそも、カウカモ事業がターゲットとする「リノベーション住宅」という市場にはどのくらいのアップサイドがあるのでしょうか?
リノベーション住宅が含まれる「中古住宅流通市場」のサイズは、2018年の首都圏のみで1.6兆円ほど。
全国ではすでに4兆円もの規模があり、これが2025年までに倍増すると言われています。
中古住宅全体の中で、リノベーションに特化した市場規模は5,000億円ほど。2025年の見込みでは8,000億円にのぼり、住宅ストックの老朽化や、嗜好の多様化、政府による後押しなどもあって、市場拡大が続くとされています。
つまり、市場環境は巨大で、今まさに伸びている市場だということは確かなことというわけです。
こうなると、残るポイントは「カウカモ」自体が、成長市場の中でいかにポジションを確立できるか?(=どう勝つのか)という点です。
カウカモがメインターゲットとするのは、「新築」にはこだわらないが、「住宅デザイン」を重視するという、都市型ライフスタイルの生活者です。
「中古リノベ住宅」を選ぶからにはコストパフォーマンスを重視するはずで、30代前後の、比較的若い都会に住んでいる家庭、というユーザー像がイメージできます。
実際に、中古マンションを選ぶ上で重要なのは「間取り」「広さ」などの定量的要素のほかに、「住宅のデザイン」という定性的な側面。
そして、こうした定性的な側面にフォーカスしたとき、カウカモに似たようなサービスがあるか?と言われると、なかなか見当たりません。
例えば、2018年東証マザーズに上場したGAテクノロジーズは、中古物件に特化した「RENOSY」を提供しています。
しかし、重視されているのは物件情報の見やすさや内見の予約しやすさなど。カウカモが提供する「ストーリー性」という世界観とは別物です。
スペックを見やすくして、地域や条件で検索というのは、多くの不動産情報サイトが主力としてきたセールスポイントですが、カウカモはある種、全く逆行するアプローチを取っています。
物件のタイトルが「すでにファンタスティック」などとなっています。
詳細ページを見てみると、次のようにスタートします。「足りないものばかりを数えないで、今あるものに目を向ける。ここには派手さはないけど、暮らしに必要な堅実さはある。レジャー施設はないけれど、お散歩を楽しめる自然が豊かな環境はある。さらに人気の公立小学校も、春が待ち遠しくなる桜並木もある。“ある” に気付く暮らし、始めよう。」
このようにカウカモでは、ユーザの物件選択の軸を「スペック」ではなく「ストーリー性」に移しかえ、ユーザーが絞り込むというよりは、プラットフォーム側が「提案」するような形になっています。
ユーザーが集まれば集まるほど、売主が増えて良質なリノベ物件が増加し、取引が増えれば増えるほど、ユーザーと物件のマッチング精度が上昇する。
サービスを知るきっかけとなるマーケティングチャネルもInstagramなどのソーシャルに特化。一般的に使われるのは検索エンジン広告ですから、ここでも独自のアプローチを取っています。
何より、これだけのコンテンツをプラットフォーム側が用意するというのは高度なオペレーション構築能力が必要で、時間もかかるはず。
「メディア運営」という、一見するとテクノロジーとは相反する地道なオペレーションを磨き続け、結果として真似することが難しい独自データを蓄積してきたと言えます。
このような優位性を、ツクルバ社では「ユーザー数の拡大」という具体的な結果に落とし込まなくてはなりません。
直近の数値をみると、会員数(10万人)の割には会員MAU(4.1万人)の伸び率は鈍化しているようにも見えます。
こうした数値が今後、トップラインにどう影響してくるのか、今後もチェックし続けたいと思います。