今回はISP事業などを展開するインターネット企業「フリービット」(証券コード: 3843)を取り上げます。
フリービットの創業者は現・会長の石田宏樹氏です。
慶應義塾大学総合政策学部へ入学し、「インターネットの父」といわれる村井純氏から教えを受けたことでITの世界へ。
在学中にインターネット関連コンテンツ制作およびコンサルティングを手掛ける有限会社リセットを設立します。
石田氏の活躍がインターネット業界で評判となり、1995年に三菱電機のISP(インターネット・サービス・プロバイダー)事業立ち上げに参画。
「ドリーム・トレイン・インターネット(以下DTI)」社の最高戦略責任者に就任し、顧客満足度No.1のISPと評価を受けるまでに会社を成長させました。
(参考)
そして2000年、同じくISP事業を展開する「フリービット・ドットコム」を設立。
創業当初は電話回線があればどこからでも利用できる「ナローバンド接続」がメインでしたが、ソフトバンクの「Yahoo!BB」参入に対抗するべく「ブロードバンド接続」サービスも開始しました。
2007年に東証マザーズへ上場を果たし、古巣のDTIを買収して個人向けサービスにも参入。
2010年にはインターネット広告代理店「フルスピード」などを子会社化、2015年にはMVNO事業をスタートするなど現在は様々な事業を展開しています。
15/4期まで横ばいだった業績は拡大傾向にあり、18/4期の売上は386.5億円と前年から約10%の増収となっています。
営業利益率は5%前後で推移しています。
フリービットはインターネットに関連するサービスを多数展開しており、事業セグメントは大きく5つに分かれています。
ブロードバンド
創業事業である「ブロードバンド」は法人や個人向けにインターネット接続サービスを提供しています。
(ギガプライズ)
法人サービスの中でもフリービットが強みとしているのはマンション向けサービスです。
導入実績は着々と積み上がっており、19/3期は30万戸を突破する見込みです。
(DTI)
個人向けサービスでは「DTI」社が「ドコモ光」や「WiMAX」回線などを提供しています。
アドテク
アドテク領域を担うのは2010年に子会社化した「フルスピード」社です。
(フルスピード)
SEOコンサルティングや運用型広告、広告効果測定に加え、DSP (Demand Side Platform)広告配信サービス「ADMATRIX DSP」も展開しています。
国内最大級の2,000億インプレッションを保有しており、国内インターネットユーザーの93%以上にリーチが可能なサービスとなっています。
(GoJapan)
また最近では、訪日インバウンドアプリ「GoJapan」も展開。
120万ダウンロード数を突破し、中国の「日本関連」アプリで1位を獲得したそうです。
フルスピードはアプリを活用してインバウンド需要取り込みを目指す店舗の集客支援を行ない、コンサルティング・フィーなどを受け取っています。
モバイル
フリービットは格安SIMなどのモバイル通信サービスも提供しています。
法人向けにはセキュリティ性能の高い商品を販売しており、個人向けにも「TONE mobile」ブランドでTSUTAYAと提携した格安SIMを展開。
また、競争が激化するMVNO市場において彼らは「MVNE(Mobile Virtual Network Enabler)」事業も行なっています。
「MVNE」は回線網を持つドコモなどの「MNO」業者と回線を利用したい「MVNO」業者をつなぐ役割を果たします。
ニーズに合わせた独自プラン作成や帯域幅の提供、ネットワーク監視も実施しています。
訪日インバウンド向けのプリペイドSIMやIoT製品向けSIMなどの導入実績があります。
クラウド
クラウド事業では主に企業向けのインフラ基盤(IaaS)を展開しています。
基幹システムの導入やWebサービスの基盤として用いられ、バックアップサービス「Backup Orchestra」などのSaaSも提供。
セキュリティ運用代行も行なっています。
ヘルステック
ヘルステック領域は17/4期に加わったばかりの事業セグメントで、薬局向けシステム等を提供しています。
セグメント別売上高を確認してみましょう。
売上が最も大きいのはアドテクノロジーで、18/4期は149億円を売り上げています。
ブロードバンド事業も100億円を突破しました。
モバイル事業も売上の約20%を担っています。
中核となる2事業が売上の70%を占めているフリービットですが、彼らが新たな成長事業として注力しているのがヘルステック領域です。
17/4期から事業セグメントとして加わり、18/4期の売上は16.4億円まで増加。
19/4上半期はすでに14.0億円となっており、売上構成比は6.5%まで高まっています。
フリービットは2016年8月に「EPARKヘルスケア」を買収しました。
光通信グループの「EPARK」から株式を取得し、ヘルステック領域への本格参入を果たしました。
EPARKヘルスケアは薬局検索サイト「EPARKくすりの窓口」や薬局特化型業務システム「Pharmacy Support」、薬局間で医薬品の在庫を融通できる「みんなのお薬箱」といった薬局業界向けのサービスを展開しています。
そして、急速な成長を遂げているのが「EPARKお薬手帳」です。
処方された薬をモバイルアプリで管理することができ、かかりつけ薬局を登録して簡単に調剤予約をできることも大きな特徴です。
EPARKお薬手帳は2016年1月リリースから着々とダウンロード数を伸ばしており、2018年10月末時点で42万件を突破しました。
(介護サプリ)
さらには2018年6月に介護記録アプリ『ケア記録アプリ』と『持ち物チェックアプリ』をリリースし、介護業界にも参入。
フリービットの新たな成長ドライバーとなりつつあります。
フリービットのコスト構造を確認していきます。
19/4上半期の売上原価率は73.0%と上昇傾向で、販管費率は22.3%まで改善しています。
財政状態も見ていきます。
総資産353.8億円に対して現金・金融資産の合計が153.1億円と資産全体の43.3%を占めます。
調達原資の中心は有利子負債で132.6億円ほど。
利益剰余金は18.5億円まで積み上がっています。
営業キャッシュフローは継続的にプラス、近年は借入による資金調達を行なっていることで財務キャッシュフローがプラスで推移しています。
18/4期は資本的支出が増加した影響でフリーキャッシュフローはマイナスに。
19/4上半期はわずかにプラスとなっています。
株価は2014年ごろに急騰しましたが、2015年にかけて下落して以降は横ばいに。
現在の時価総額は192.5億円で、キャッシュ153.1億円と有利子負債132.6億円を考慮した企業価値(EV)は172.0億円。
19/4上半期の営業利益10.1億円から年額を20億円と仮定した場合8.6年分という評価を受けていることとなります。
フリービットは中期事業方針『SiLK VISION 2020』において、2年後の売上目標を500億円に設定しています。
19/4期の目標は480億円で、進捗率は44.8%とまずまずの進捗状況となっています。
フリービットはここから成長を加速するべく、2018年8月に「アルク」買収を発表しました。
(プレスリリース)
2018年1月期の売上は62.7億円、営業利益は3.0億円で、買収価格は26.2億円となっています。
(アルク)
アルクは来年で創業50週年を迎える老舗の語学教育企業。
「キクタン」シリーズは刊行部数400万部を誇っており、オンライン辞書「英辞郎 on the WEB」も提供しています。
田中伸明社長によると「フリービットグループのサービスを使うと、他社(のサービス)を使うよりも語学教育の成果が出る」ようなサービス開発を目指すとのこと。
「ヘルステック」「エドテック」という新領域を次々と開拓しているフリービットの動向を引き続きチェックしていきたいと思います。