今回はeラーニングによる教育サービスを提供している「すららネット」について見ていきたいと思います。
代表取締役である湯野川孝彦氏は1960年生まれ、大阪大学基礎工学部卒です。
日本エルシーエーを経由したのちに、ベンチャー・リンクに入社。
ベンチャー・リンク(現:C&I ホールディングス)ではフランチャイズ立ち上げ専門員として、『牛角』『銀のさら』『タリーズ』など数多くの案件に携わりました。
2004年に教育事業に参入して、個人指導のフランチャイズ支援を開始。
当初は個別指導チェーンの分析ではなく、実際に経営してみようとフランチャイズに加盟して1校舎をゼロから立ち上げました。
1年半で生徒数は180人ほどになり、全国で400校あるうちの2位か3位ぐらいまでに成長させます。
生徒数を増やすことはできたのですが、生徒の成績はイマイチ上がりませんでした。
個人指導の業態には問題があることに気づき、解決する手段としてeラーニングのプロジェクトを2005年にスタートします。
対話型アニメーション教材『すらら』の一部が出来上がったので実際に検証することにし、2007年にeラーニングだけの塾を東京駅と駒澤大学駅の近くで開校。
学力の低い生徒ばかり来ましたが、「学校の授業とか塾とかぜんぜんわからないけど、すららだったらわかる」と言っていたそうです。
教育事業に価値があると考えて取り組んでいましたが、ベンチャー・リンクが業績不振のため途中からもう開発投資もできない、広告宣伝費もできないという状況になっていました。
『すらら』はITビジネスであるため、どんどん投資していかなければ将来はないだろうと考えます。
2008年にベンチャー・リンクの子会社として設立されたすららネットを2010年にMBOして独立します。
2013年にはベネッセホールディングスと業務資本提携するなど、順調に業務を拡大していきます。
2017年12月にマザーズへと上場しました。
それでは業績の推移を見てみましょう。
2017/12期において売上は7.3億円と堅調に増加しています。
営業利益は1.2億円で、営業利益率は16.4%です。
今回のエントリでは着々と業績を伸ばしているすららネットの事業と展望についてまとめていきます。
すららネットでは対話型アニメーション教材『すらら』を提供しています。
(おしえてすらら)
『すらら』では小学校低学年から高校生までの子供たちが国語・数学・英語の3教科をパソコンやタブレットで勉強することができます。
(決算説明資料)
『すらら』には授業となるレクチャー機能と問題集のドリル機能があります。
レクチャー機能で登場するキャラクターとの対話型で授業を受けて、ドリル機能の問題を解くことで理解を定着させていきます。
ドリル機能は回答者の理解度に応じて難易度が変化するため、適度な達成感を得つつ自信を持って進めることができます。
『すららネット』は学校や学習塾、個人にサービスを提供しています。
①学校・学習塾向け(B to B to C)
学校や学習塾などの導入校に対して先生が使う管理者用IDを発行します。
導入校は生徒向けにIDを発行することで、導入校を介して『すらら』を使えるようになります。
2018年6月末時点において学習塾694校、学校148校で導入されており堅調に増加しています。
また、スリランカやインドネシアなどの海外にも提供しており、海外の導入校数は24校です。
すららは1校舎につき課金される月額「サービス利用料」と生徒ID1つにつき課金される月額「ID利用料」を収入として得ています。
学校は学習塾と比べて利用人数が多いため、一定の生徒数までは固定の利用料金で使うことができます。
②個人向け(B to C)
個人学習者に向けて『すらら』のIDを発行しています。
(すらら)
利用料金は入会金10,800円(今なら無料ですが)とコースに応じた月額が8,640〜10,800円かかります。
参考までに学習塾であるKUMONの料金表を見てみると、小学生だと1教科あたり月額7,020〜7,560円です。
塾とeラーニングでタイプは違いますが、3教科を選択する場合だとすららの月額はKUMONの3分の1ほどとなっています。
また、個人向けの機能としてすららが提携している塾の講師によるサポートがあります。
すららを利用している生徒の進捗確認や目標設定などを学習塾の講師が行います。
また、生徒からの問い合わせ対応などは学習塾が対応します。
その代わりに提携している学習塾に生徒数に応じた受講フォロー委託料を支払っているため、学習塾は代理店のような存在です。
2018年6月末時点における個人利用のID数は780と増加傾向にあります。
学習塾や学校も含めた全体のID数は58,864なので個人のID数は1%程度です。
さて、それではマーケット別の売上を見てみましょう。
2017/12期における売上は学習塾向けが4.6億円と全体の63%を占めています。
続いて学校向けが2.3億円、個人向けは3,170万円です。
学習塾と学校の校数と売上から単価を計算してみましょう。
1校あたりの単価は学習塾が83万円、学校が174万円と倍近く異なっています。
学習塾、学校ともに2016/12期から単価が上昇していることがわかります。
コスト構造について見てみましょう。
売上に対する原価率が3.7ptも減少しています。
販管費は1.2pt増加していますが、これは認知度を高めるための広告費が増加しているためです。
続いてはバランスシートです。
2018年6月末時点において、総資産9.3億円のうち現預金は4.8億円です。
ソフトウェアを含む無形固定資産は2.9億円ほどあります。
資産の源泉となる負債・純資産を見てみると、資本金と資本剰余金の合計が5.5億円、利益剰余金が2.2億円と純資産が大部分を占めています。
借入金はありません。
2017/12期における営業キャッシュフローは1.7億円、フリーキャッシュフローは6,000万円ほどです。
現在の時価総額は74.9億円なので、現預金を考慮した企業価値は70.1億円です。
フリーキャッシュフローが6,000万円なので、約117年分の評価を受けています。
最後に今後の展望について見てみましょう。
(決算説明資料)
主要顧客である学習塾向けは独立開業だけでなく、ローカル中堅大手にも注力することで事業の拡大を狙っています。
(決算説明資料)
学習塾についで売上の大きい学校ですが、競合は多く参入しているものの学習向上成果を出せていないそうです。
そこで、すららでは成績向上実績をもとにマーケットの拡大を狙っていきます。
(決算説明資料)
直近の目標として、2018/12期の売上は9億円(24%成長)を目指しています。
2018年2Qにおける進捗率を見てみましょう。
(決算説明資料)
2Q時点での売上は4.3億円で、目標に対する進捗率は48.4%なので順調に推移していることがわかります。
・参考