今回扱うのは、警備会社として業界一位を誇る「セコム」です。
セコムは、1962年に国内初のセキュリティ会社として創業。
2年後には東京オリンピックでの活躍が話題となり、1965年には早くもドラマ化されるなど、日本の警備産業をリードしてきた会社です。
創業50年を超えるセコムですが、2000年度以降も止まらずに成長を続けてきたことが分かります。
2001/3期の売上高は4549億6000万円だったのが、2017/3期には9280億9800万円にまで増加。
小さなセキュリティ会社として事業を開始したセコムは、どのように発展してきたのでしょうか。
今回の記事では、創業からの歴史と現在の事業展開、彼らが掲げた「2030年ビジョン」について整理してみたいと思います。
まずは、セコムの歴史についてまとめます。
1962年:創業
飯田亮と戸田寿一は、ヨーロッパから戻った友人から「欧米にはセキュリティ会社があり、警備という仕事がある」と聞きます。
まだ日本にない新しい事業であることから、二人は創業を決意。
翌1962年7月7日、東京・芝公園にオフィスを設け、日本初の警備保障会社「日本警備保障(株)」を創業します。
飯田亮氏は1933年生まれなので、29歳にしてセコムを創業したことになります。
1964年:東京オリンピックでの活躍
契約が増え始めた1964年、東京オリンピックの選手村などの警備を受注し、大きな話題を呼びます。
1965年には彼らをモデルにしたテレビドラマ「ザ・ガードマン」をスタート。
1966年:オンライン安全システム「SPアラーム」の開発
絶好調の中でも人的警備だけでは発展がないと考えると、1966年には日本初のオンライン安全システム「SPアラーム」を開発。
契約先に防犯・防火センサーを取り付け、24時間遠隔で監視するという仕組みを作ります。
当初は契約が伸び悩みますが、1969年、108号連続射殺魔事件の犯人逮捕のきっかけになると、急成長していた巡回警備を翌年に廃止。
東京・晴海に中央管制センター、そして全国18ヶ所に管制センターを新設し、「SPアラーム」を本格的に拡大します。
1973年:「セコム」ブランドの制定
1973年、新ブランドに「SECOM」(セコム)を制定。
SECOMは「Security Communication」の略語で、「安全情報科学」の意味を当てているとのこと。
1974年には東証二部に上場したほか、CD(現金自動支払機)の安全管理システム「CDセキュリティパック」を開発。
1975年には東京・晴海で世界初のCSS(コンピュータ・セキュリティ・システム)が稼働。
1978年には東証一部に昇格し、台湾で初の海外進出も行います。
1981年:ホームセキュリティ事業への進出
1981年、日本初の家庭用安全システム「マイアラーム」(現「セコム・ホームセキュリティ」)を開発。
1軒1軒営業に回ることで顧客を開拓し、日本のホームセキュリティ市場を文字通り切り拓いていきます。
1983年には社名を「セコム」に変更したほか、仙台市で都市型CATV会社、宮城ネットワークを設立。
茨城ネットワークや新潟ネットワークも設立し、情報系事業に進出します。
1984年には当時会長を務めていた創業者の飯田亮氏が、稲盛和夫氏や牛尾治朗氏とともに第二電電企画(KDDIの前身)を設立。
1989年:「社会システム産業」を目標として設定
1989年、セコムは「社会システム産業」の構築を目指すことを宣言。
「ミスター・ジャイアンツ」こと、元プロ野球選手の長嶋茂雄さんがイメージキャラクターに就任したのは1990年のこと。
1991年には「在宅医療サービス」、1999年には地理情報サービス、2000年には不動産業、2006年には防災事業などど経営の多角化を進めます。
2010年:「ALL SECOM」戦略
2010年には全ての事業をつなぐ「ALL SECOM」戦略を開始。
そう言われても正直、よくわかりませんが、セコムが展開する7つの事業でシナジーを発揮し、スピード感を持って「社会システム産業」の構築を加速するのが狙いとのこと。
アジアでは韓国、タイ、マレーシア、シンガ ポール、中国、インドネシア、ベトナム、ミャンマー、欧米では英国、オセアニアではオーストラリア、ニュージーランドなど、海外展開も加速しています。
セコムの「過去」が整理できたところで、セコムの「現在」についても確認しましょう。
セコムは大きく7つの事業セグメントを展開しており、それぞれの売上は次のようになっています。
2017/3期の売上9281億円のうち、セキュリティ事業が5343億円を売り上げ、全体の57%ほどを占めています。
続いて防災事業が1262億円(14%)、メディカルサービスが668億円(7.2%)、地理情報サービスは516億円、情報通信も493億円、不動産その他も573億円と、5%ずつの売上をあげています。
売上の規模感を掴めたところで、各事業の内容をチェックしていきましょう。
① セキュリティサービス事業(売上5343億円:57%)
誰もが知っているセコムのメイン事業です。
セコム上信越、セコム北陸、セコム山梨、セコム三重、アサヒセキュリティなどのグループ企業30社以上で事業を展開。
国内のセキュリティ契約件数は227万8000件にのぼり、法人が103万8000件、家庭が124万件にまで達しています。
海外は84万件。
② 防災事業(売上1262億円:13.6%)
能美防災(株)とニッタン(株)にて火災報知設備や消火設備などの製造販売、取り付け工事、保守業務などを展開。
③ メディカルサービス(売上668億円:7.2%)
セコム医療システム(株)にて在宅医療、遠隔画像診断支援、医療機関向けの不動産賃貸を展開。
(株)マックでは医療機器や機材の販売、セコムフォート(株)などではシニアレジデンスの運営を行なっています。
④ 保険(売上420億円:4.5%)
セコム損害保険(株)で損害保険事業、セコム保険サービシウ(株)で保険会社代理店業務を展開。
⑤ 地理情報サービス(売上516億円:5.6%)
(株)パスコにてGIS(地理情報システム)を活用した自治体・民間向けの業務支援サービスを提供。
測量・計測や、建設コンサルタント業務も。
⑥ 情報通信(売上498億円:5.4%)
セキュリティネットワークサービス、ビジネスシステム構築・運用、情報セキュリティサービス、大規模災害対策、データセンター事業などを展開。
⑦ 不動産その他(売上573億円:6.2%)
防犯・防災を重視したマンションの開発・販売や、賃貸ビル・マンションの運営を行なっています。
こうしてみると、セコムは単なる警備会社ではなく、同社が掲げていた通りの「社会システム産業」であることがわかります。 もはやコングロマリットですね。
早くから海外展開していたセコムですが、売上の多くは日本に依存しています。
全体のコスト構造も見ておきましょう。
売上原価率が67%と高く、人件費が11%ほどを占めています。
続いて、セコムの財政状態をバランスシートからチェックします。
資産の内訳
バランスシートの規模(総資産)は全体で1.65兆円。
そのうち現預金は3023億円、「現金護送業務用現金及び預金」が1306億円あります。
その他、有形固定資産が3765億円、投資その他の資産も4000億円近くあり、大きいですね。
「投資その他の資産」の中には、投資有価証券が2809億円あります。
負債と純資産
資産の調達源泉として最も大きいのは利益剰余金で、7975億円ほどにのぼっています。
借入金など有利子負債の合計は924億円ほど。
キャッシュフロー
営業キャッシュフローは、年間1000億円以上を安定して稼ぎ出しています。
余った分は設備投資や有価証券などへの投資、配当金の支払いに充てるという理想的な形です。
フリーキャッシュフローは5年連続で600億円を超えています。
EV(企業価値)
セコムの株式時価総額は1兆7600億円。
現預金が3023億円、有利子負債が924億円あるので、ネットキャッシュは2099億円。
企業価値(EV)は1兆5501億円ということになります。
フリーキャッシュフローとして年間840億円(過去5年の平均)稼ぐ力があると考えると、EV/FCF倍率は18.4倍。
成熟企業ということを考えれば、一般的に言って妥当な水準です。
最後に、セコムが今後どのような成長像を描いているのかを見てみましょう。
1989年に「社会システム産業」の構築をめざすことを宣言し、1992年には創業30周年を機に、「セコムの事業と運営の憲法」を創業者の飯田亮氏が自ら執筆しています。
「社会システム産業」とは、社会で暮らす上で、より「安全・安心」で、「快適・便利」なシステムやサービスを創造し、それらを統合・融合させ、社会になくてはならない新しい社会システムとして提供する、というもの。
そして2017年5月には、2030年に向けた長期ビジョン「セコムグループ 2030 年ビジョン」を策定しています。
この辺りを見れば、セコムグループの長期的な考え方については把握することができそうです。
大前提として、セコムは創業以来、「警備産業」「安全産業」「社会システム産業」へと事業の幅を広げてきました。
その中で、「人材」「組織」「技術」など5つの面において無形・有形の資産を築いてきたことが、セコムの大きな強みとなっています。
大きな世の中の流れとして、「人口動態の変化」や「テクノロジーの進化による新たな犯罪」、「経済環境の変化」「環境問題の深刻化」など、社会の課題が複雑化しています。
その中で、「安心・安全」の重要性はさらに高まるだろう、というのがセコムの考えであり、それに対応するインフラが必要だと考えています。
そこで策定したビジョンが、「あんしんプラットフォーム」構想の実現。
少し抽象的ですが、どういう特徴があるのでしょうか?
特徴の一つとして、「時間や空間にとらわれないサービス提供」を掲げています。
さらに、サービスの個人個人への最適化。
あらゆるリスクに対して、きめ細かく切れ目のないサービスを提供するということも掲げています。
三つの特徴に共通するのは、「社会の隅々まで」セコムのサービスを届け、人間が安心して暮らせる社会を作りたい、という姿勢です。
具体的なサービスイメージも出てきました。
テクノロジーが発展するに伴って、セコムのサービスがより深く社会に浸透していくイメージですね。
日本で培ったノウハウを活かし、アジアをはじめとする海外でもセコムのブランドを展開していく構えです。
セコムの海外売上比率は5%にすぎませんが、今後その割合が拡大していけば、確かに大きなポテンシャルがありそうです。
最後の図はちょっとよくわからないですね。
セコムの2030年ビジョンは、抽象的な説明が多いことは否定できません。
しかし、1962年の創業に始まり、セコムが日本の安全産業をリードし、革新的なサービスを作ってきたことも紛れもない事実です。
1992年には創業者自ら「セコムの事業と運営の憲法」を作るなど、企業文化の構築に大きな力を注いできた会社であることが分かります。
ますます発展するテクノロジーをうまく活用し、社会の隅々にまでセコムのサービスが浸透していけば、さらに強力な企業になっていくことは間違いありません。
そのために問われるのは、セコムの企業体としての組織力なのではないかと思います。革新を続ける組織を維持していけるかどうか。(結果抽象的ですがw)
2010年の「ALL SECOM」あたりから発言が抽象的になってきたという印象もありますが、同社がこれからどのように活躍していくのか、今後もチェックしていきたいと思います。