マンガ作品の売上が75%増!倍率267倍のラノベ投稿プラットフォーム「アルファポリス」2018年度1Q決算
アルファポリス

今回は、いわゆる「ライトノベル」などをインターネットで出版できる「アルファポリス」の2019年3月期1Q決算についてまとめます。

アルファポリスWebサイト

最初に売上高の推移を確認していきます。

2017年の前半、売上高が大きく落ち込みましたが、そこから右肩上がりに回復。

今四半期の売上高は11.1億円となり、2017年1Qと比べて1.7倍にまで増加しています。

増収率は30.8%と、2018年1Qから高い増収率をキープしています。

営業利益は一時期、赤字スレスレまで落ち込んでいましたが、今四半期の営業利益は2.8億円と、前年同期から5倍以上に回復しています。

営業利益率も25.4%まで上昇しています。

大手出版社の講談社や集英社と比べてみると、アルファポリスの収益性が非常に高いということがわかります。 

一時期売上高が落ち込んでいた「アルファポリス」が好調を取り戻した理由はどこにあるのか、要因を探っていきたいと思います。

漫画の売上高が前年から75%増加

アルファポリスは出版社ですが、実は今年の1月までゲーム事業も行なっていました。

セグメント別の売上推移を見てみましょう。

2018年1月に譲渡されたゲーム事業は、それまで1億円程度の収益しかあげていません。

そのため、売上のほとんどは出版事業によるもので、2017年1Qには売上5.7億円まで低迷していましたが、直近では11億円にまで拡大しています。


出版事業の売上高をジャンルごとにチェックしてみましょう。

一番の主力ジャンルはライトノベルですが、最近は漫画の売上が最も伸びており、今四半期は前年から75%増の4.4億円となりました。

漫画1冊の平均単価を600円(定価750円の七掛け)と仮定して試算してみると、今四半期は漫画全体でおよそ74万部を売り上げた計算になります。

特にヒットした『ゲート』『のんびりVRMMO記』『黒の創造召喚師』以外では58万部が売れていることになり、特定のヒット作にあまり依存していない売上構成であることが推測できます。

一方、主力のライトノベルは今四半期に56タイトルを刊行しました。

単価を1,300円(定価1800円の七掛け)と仮定した場合、今四半期の売上はおよそ42万部。

上スライドのヒット作以外が33.5万部以上売れていることになります。

漫画とライトノベルのいずれも、特定の大ヒット作にそれほど依存せずに売上を伸ばしていると言えます。


数多くの小ヒット作を生み出せる理由

アルファポリスの売上構成から考えると、1万部前後の「小ヒットタイトル」が数多く存在しているのではないかと推測できます。

彼らはなぜ、これだけのタイトルを生み出し続けることができるのでしょうか。


その秘密は、アルファポリス独自のビジネスモデルにあります。

彼らは、自社のWebサイトに投稿されたコンテンツの中から人気作を選出するという仕組みをとっています。

たくさんのユーザーが高く評価している人気作を出版することによって、書籍のヒット確率を高めています。

また、もともとファンが付いている作品を書籍化すれば、既存のファンが買ってくれるために最低限のニーズは見込むことができます。

アルファポリスが運営するWebサイトの累計コンテンツ数を確認してみましょう。

Webサイトのコンテンツは大きく2種類あり、作家が作品をアルファポリスのサイトへ直接投稿する「自社サイト投稿」と、個人ブログなどへのリンクを掲載する「外部URL」に分かれます。

2年前まで5,000点ほどだった自社サイト投稿が、今四半期は3万2,000点まで増加しています。 

これだけの作品からわずか120作品が刊行されているわけですから、倍率267倍の狭き門というわけです。


投稿作品を閲覧・評価するユーザー数はどのように推移しているでしょうか。

月間ユニークユーザー数は前年から16%増加して184万人となっています。

これだけのユーザーが評価者として作品を選別することで、安定してある程度のヒット作品を生み出し続けることができるエコシステムが実現していると言えます。


ゲーム事業の譲渡で収益性が改善

営業利益が売上高以上にV字回復を果たした理由はどこにあるのでしょうか?

セグメント別利益の推移を確認します。

ゲーム事業は開始から一度も黒字化できておらず、アルファポリスの利益を押し下げる要因となっていました。

営業費用の推移を確認してみましょう。

ゲーム事業の開始に伴って増加した「その他」や「人件費」「販促費」が減少したことで、今四半期の営業費用は前年同期よりも低くなっています。

アルファポリスの収益性はゲーム関連費用の削減によって改善したということがわかります。


そのほか、出版事業のセグメント利益を見てみると、2017年前半にガクンと減少しています。

2017年1Qの決算資料によると、返本が拡大したことで大幅な減益となってしまったようです。

出版社は取次会社に書籍を販売することで在庫を抱えるリスクを軽減しています。

 (日販ホームページより

しかし、一度取次会社へ販売した本であっても書店で売れないと判断された場合は出版社へ返本されてしまうことがあります。

2017年前半はアルファポリスの代表作『ゲート』のTVアニメが放送終了となり、関連書籍の返本が通常よりも多くなったことで急激に営業利益が減少してしまいました。

ただ、返本の拡大が一時的なものであったため、現在は再び2億円以上の利益をあげています。

アルファポリスがV字回復を果たすことができたのは、返本拡大という突発的な変動が解消し、不採算だったゲーム事業を譲渡したことが大きな要因となっています。


また、アルファポリスは業績好調の要因として「電子書籍販売の成長」を挙げています。

具体的な内訳は公開されていないものの、上のように売上原価率が下がり続けていることからも、電子版の販売が好調である片鱗をうかがうことができます。


財政状態

最後にアルファポリスの財政状態を確認していきます。

総資産57.9億円のうち現預金が33.5億円です。売掛金が約20億円あり、流動資産が96%を占めています。

利益剰余金は28.9億円まで積み上がっており、自己資本比率は79.5%となっています。

借入金の合計は4,500万円程度でほぼ無借金経営となっています。


前年度までのキャッシュフローを見てみましょう。

営業キャッシュフローは安定してプラスで、2018年度は7.4億円を稼ぎ出しています。

業績が悪化した2017年度のフリーキャッシュフローはマイナスとなりましたが、昨年は7.1億円と急増しています。


株価の推移を見てみましょう。

2016年4Qの決算発表後に株価は低迷していましたが、2018年通期の業績予想を上方修正した後に上昇しました。

その後、2018年4Q決算後に急騰し、現在の時価総額は205億円となっています。

現金が33億円あることを考慮すると、EV(企業価値)は172億円と計算できます。

前年度のフリーキャッシュフローに対して24.2年分の評価を受けているということになります。