今回は、新たに上場した「RPAホールディングス」についてまとめてみたいと思います。
社名の「RPA」は、2016年はじめに欧米のコンサルティング会社によって提唱された、認知技術(ルールエンジン・機械学習・人口知能等)を活用したホワイトカラー業務の効率化に関する概念。
人間の補完として業務を遂行できることから、デジタルレイバー(仮想知的労働者)とも言われています。
RPAホールディングスは、「RPA(Robotic Process Automation)」という概念が提唱されるよりも前の2008年から、オフィス版のロボットソーシングサービス「BizRobo!」を展開。
過去5年の業績推移をみると、とんでもない成長を遂げているように見えます。
2016/2期は決算期の変更により、5ヶ月だけの業績にも関わらず、前年よりも売上が増えています。
そして2017/2期には売上が25億円を突破。一気に2倍以上に増えています。
今期途中までの数値もすでに前年通期を超えており、急成長を続けていることが伺えます。
急拡大を続けるRPAホールディングスとはどのような会社なのでしょうか。
そして、具体的にどのような事業を展開しているのでしょうか。
今回のエントリでは、報告された事業数値とともにRPAホールディングスの中身を掘り下げてみたいと思います。
2000年:会社設立
代表の高橋 知道氏は一橋大学出身で、1993年にアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社した人物。
1996年にソフトバンクに入社したのち、2000年に「デジタルリパブリック(現・RPAホールディングス)」として会社を設立しています。
当初の事業目的は「ビジネスプロデュース」で、大企業向け新規事業コンサルティングに特化します。
2008年:ロボットアウトソーシング事業を開始
2008年にロボットアウトソーシングを目的としたビズロボ事業部を設立。「BizRobo!」の提供を開始。
2013年には、ロボットアウトソーシング事業をビズロボジャパン(現RPAテクノロジーズ株式会社)として会社分割します。
2016年より純粋持株会社へ移行したのち、商号をRPAホールディングスに変更しています。
大企業向けのコンサルティングから、自社事業の創業を続ける中で、「ロボットアウトソーシング」という新しい分野に展開したら、「RPA」という大きな注目を集めるジャンルになったということのようです。
それでは、彼らが展開する「RPA」とは一体どのような事業なのでしょうか。
「成長可能性に関する説明資料(その1・その2)」の中身をまとめてみます。
ファナックをはじめとして、工場ではファクトリーオートメーションと呼ばれるジャンルが確立されており、昔は人の手で行なっていた製造ラインをロボットに代替する流れがかなり進んでいます。
一方、いわゆるオフィス業務を行う「ホワイトカラー」の中では、そういった流れはなかなかありません。
RPAはその名前通り、機械学習などのテクノロジーを駆使することで、人間の業務を保管・遂行することが大きな役割となっています。
イメージとしては、80人体制で運営していた事務所でも、データ入力やデータチェックなどをロボットに代替することで、定型的な業務から解放。13人体制にまで削減できるとのこと。
とあるマッキンゼーのレポートによると、2025年までに世界で1億人以上のホワイトカラー労働者、あるいは1/3の仕事がRPAに置き換わるとのこと。
RPA市場は大きく見積もって6.7兆ドルにまで拡大する見込みだそうです。
RPAがこれほどまでに注目を集めている理由として、次のことが掲げられています。
・日本の人口動態の変化(2060年には国民の2/5が65歳以上になる見込み)
・経産省「第4次産業革命への対応の方向性」でも、仕事と働き方が大きく変化することが示唆
・AI・ロボットを駆使して人間を定型業務から引き剥がすことが解決策として挙げられる
また、日経新聞の一面でRPAが取り上げられたり、メガバンクがRPAにより事務作業を自動化する取り組みを開始するなど、すでに企業改革が始まっているとのこと。
そして、現在のところRPAグループの「RPAテクノロジーズ」が、RPA関連市場で80%もの圧倒的なシェアを握っている状態とのこと。
ガートナージャパンの調査によると、国内企業のうちで「RPAを既に導入済み」を回答した企業は全体の14.1%程度で、まだまだ伸び代があると主張しています。
RPAホールディングスは、各地でRPAに関するセミナーを開催することで、潜在顧客を集めているようで、定員超過率4倍を超えるなど、かなり関心が高まっているようです。
導入者数も2017年11月時点で250社と、急激に増加していることがわかります。
大手メガバンクや日本生命、リコー、日立、ソフトバンクなど、名だたる大手企業がRPAホールディングスの製品を導入しています。
ジャンルとしては「ビジネスプロセス」「情報調査・不正検知」「電子商取引業務代行」「マーケティング」などの4つがメインジャンルのようです。
具体的なユースケースは以下のようになっています。
日本生命保険相互会社
・請求書の約10桁の証券番号をスキャンし、業務システムに入力する作業を自動化
・1件あたり数分かかっていたのが、20秒ほどに短縮
三菱東京UFJ銀行
・一定のルールに基づいて行われる作業にRPA導入
・20種類の事務作業で、年間8000時間の作業削減
オリックス
・登録したい事務処理の手順を登録する方法を覚えれば、IT知識のない担当者でも1週間でロボットを開発できる
「ロボットアウトソーシング」は、次のように三つの段階から考えることができます。
まずは、定型作業を30%ほど代行するような「巨大マクロ」の構築から始まりましたが、機械学習技術の進展により、徐々に非定型の作業も代替できるようになり、いずれは人間以上の能力を有することになるとのこと。
続いて、事業数値をチェックします。
売上の内訳
売上の大部分はロボットアウトソーシングではなく「アドネットワーク」事業です。
今期の売上29億円のうち、14億円ほどを占めています。
アドネットワークが全体の48%を占め、割合としては最も大きくなっています。
ただ、ロボットアウトソーシングの比率が大きく増えているのも事実で、現時点では全体の38%ほど。
あまりにRPA推しだったためにアドネットワーク事業について見忘れていました。
RPAホールディングスのアドネットワーク事業では、NTTコミュニケーションから2012年に引き継いだアフィリエイトサービス「PRESCO」の運営を行なっています。
広告主とメディア(パートナー)を結びつける成果報酬型のプロモーションサービスであり、RPAを活用した「PRESCO Robo」の提供も打ち出しています。
また、法人向けのマーケティング支援としてウェブサイトに企画運営も行なっているとのこと。
資産の状況
直近の総資産は27億円あり、そのうち16.5億円が現預金となっています。
かなりのキャッシュリッチですね。
負債と純資産
バランスシートの反対側をみると、そのお金がどこからきたのかがわかります。
みると、資本金と資本剰余金の合計が10億円に膨らんでいます。ここで、「株式を発行して資金を調達したんだな」ということがわかります。
利益剰余金は5.6億円ほどで、前期末から2億円ちょっと増えています。
キャッシュフロー
今期途中でのキャッシュフロー計算書は公開されていません。
前期までの数字をみると、営業キャッシュフローが1.5億円を超えるまで増加しています。
今期はさらに大きくなっていそうですね。
現時点での時価総額が811億円ですから、現預金16.5億円と借入金2.7億円を考慮したEV(企業価値)は797億円となります。
仮に、フリーキャッシュフロー2億円とするとEV/FCF倍率398倍となりますから、市場から大きく期待されていることがわかります。
RPAホールディングスの株主構成をチェックします。
全体の41%を創業者の高橋氏が握っています。二番目の大角氏も取締役です。
三番目の「GMCM VCP」はシンガポールの株主のようです。
2015年9月に代表の高橋氏から140株が譲渡。
その後、2017年5月に1株につき5000株の株式分割を行い、10月にソフトバンクなどを割当先として10億円ほどの資金を調達。
RPAホールディングスは、2017年7月にソフトバンク(株)との業務提携を結んでおり、そのことがこの増資に関係していると思われます。
ソフトバンクとRPAホールディングスによる
業務提携のお知らせ
今後、RPAホールディングスは、より多くのジャンルでRPAソリューションを開発することで、事業の拡大を目指すとしています。
彼らの事業は、発展が進んでいけば素晴らしいものになることは間違いないと思いますし、ストーリーとしても非常にわかりやすいので株価も高騰しそうです。
(ホームページより)
ただ、自分は疑い深いので、「彼らの事業にどんな優位性があるのか?」と考えています。
RPAホールディングスの連結従業員数は74名、そのうちロボットアウトソーシング事業に携わるのは36名です。
RPAホールディングスは、「自ら中核技術を開発しないと割り切り、国内外の有望な技術を集めて顧客ごとにRPAを組み合わせた提案をする」ことに特化しています。
自ら特殊な技術を保有したいということであれば、長期的にみて何に優位性を持つことができるのか疑問です。
標準的なRPAは、月60万円で提供するとのこと。
現時点では「既存の労働力を代替する」ということで理にかなっているでしょうが、技術がより広がっていけば、単価が下がることは避けられないことなのではないかと思います。
ただ、彼らがすでにかなりのトラクションを獲得していることは事実です。
営業利益が5億円に満たない会社に800億円もの時価総額がつく、というのは明らかに期待が大きいですが、RPAホールディングスがそれに見合う成長を見せることができるのか、今後も注目していきたいと思います。