Time WarnerのM&Aの歴史に見る配信サイドとコンテンツホールダーの戦いの歴史と今後
AT&T Inc.

2016年10月にAT&TがTime Warnerを854億ドルで買収すると発表していました。

「Time Warner」という名前だけだと、ちょっとなんの会社かわからないかもしれませんが、以下のブランドを持っています。

ニュースのCNNやアニメ専門チャンネルのCARTOON NETWORK、映画のHarry Poter、HBOなど様々なコンテンツを持っています。

ただかつてのTime Warnerは、もっと沢山のコンテンツを保有していましたし、コンテンツを保有するだけでなく配信のところまで手がけていたり、通信と放送の融合を目指した会社でした。

コンテンツでいえば、雑誌の「TIME」「FORTUNE」などを保有していました。配信のところでいえば、米国2位の規模のCATV会社でした。通信と放送の融合でいえば、当時としては世界最大のインターネット企業であったAOLと「世紀の大合併」をしました。

これらは、度重なる買収によって得たものでしたが、買収によって得たかなりの部分がSpin-Offをし、今回はなんと自身をAT&Tに売却するという決断をしています。


ではここで、Time Warnerの歴史を見ていきたいと思います。

発表日 買収社名 種類 事業領域
1970年 the Paperback Library 買収 出版
1975年 Warner-Amex Satellite Entertainment JV CATV
1976年10月 Atari 買収 ゲーム
1982年 Popular Library 買収 出版
1983年1月 the Pittsburgh Pirates 買収 野球チーム
1984年 Warner-Amex Satellite Entertainment 買収 CATV
1985年 The Franklin Mint 買収
1985年 The Franklin Mint 売却
1985年 Warner-Amex Satellite Entertainment 売却 CATV
1985年 Atari Games 売却 ゲーム
1986年 the Pittsburgh Pirates 売却 野球チーム
1988年 Lorimar-Telepictures 買収 コンテンツ(テレビ)
1989年 Time 合併 出版
1992年 Atari Games 買収 ゲーム
1992年 American Television and Communications 買収 CATV
1995年 Paragon Cable 買収 CATV
1995年 KBLCOM 買収 CATV
1996年 Turner Broadcasting System 合併 コンテンツ(TV)
1996年 Atlanta Braves 買収 野球チーム
1996年 Time Warner Interactive 売却 ゲーム(開発スタジオ)
1998年 the Six Flags Theme Parks chain 売却 遊園地
2000年 AOL 合併 ポータルサイト・ISP
2000年 CDNOW 資本参加 EC(音楽)
2000年 Lockstream 資本参加 デジタルコンテンツ管理
2001年 Urban Entertainment 資本参加 コンテンツ(TV)
2002年 Magis Networks 資本参加 ビデオ会議
2002年 NBA TV 資本参加 コンテンツ(スポーツ)
2003年 Warner Music Division 売却 音楽レーベル
2004年 ContentGuard 資本参加 セキュリティ
2005年 Glu Mobile 資本参加 ゲーム
2006年2月 SkyStream Networks 資本参加 ビデオ会議
2006年 Time Warner Book Group 売却 出版
2006年 Veoh 資本参加 コンテンツ(インターネットTV)
2007年 TT Games 買収 ゲーム
2007年 OnLive 資本参加 ゲーム
2007年 Claxson Interactive Pay Television Networks 買収 コンテンツ
2007年 Atlanta Braves 売却 プロ野球チーム
2008年 Gaia Online 資本参加 ゲーム
2008年 Time Warner Cable Spin-Off CATV
2009年 Snowblind Studios 買収 ゲーム
2009年 AOL Spin-Off ISP・ポータルサイト
2009年 Midway Games 買収 ゲーム
2009年 OnLive 資本参加 ゲーム
2010年 BNI Video 資本参加 ビデオサービスプロバイダー向けソフト
2010年 AdaptiveBlue 資本参加 SNS
2010年 Turbine, Inc 買収 ゲーム
2010年 Shed Media 買収 コンテンツ
2011年 Flixster 買収 SNS(映画)
2011年 LazyTown Entertainment 買収 コンテンツ(ヒーロー)
2010年 BNI Video 資本参加 ビデオサービスプロバイダー向けソフト
2012年 Alloy Entertainment 買収 コンテンツ
2012年 Bleacher Report 買収 コンテンツ(スポーツ)
2013年 Dicsord 資本参加 ゲーム
2014年 Time Spin-Off 出版
2016年 Kamcord 資本参加 SNS(ゲーム)
2016年 Dynamic Signal 資本参加 SNS(企業)


野球チームの「the Pittsburgh Pirates」と「Atlanta Braves」を保有していたことと、ゲームに関するM&Aを積極的に行なっていたのが意外でしたが、大きく4つのタイプのM&Aがあるようです。


まず1つ目は、コンテンツの多角化のM&Aであり、映画だけだったWarner Communicationsが、出版社のTIMEを1989年に、TV局(CNNなど)のTurner Broadcasting Systemを1996年を買収しています。


2つ目に、保有していたコンテンツを配信するためのM&Aであり、CATVのAmerican Television and Communicationsを1992年に、Paragon Cableを1995年に、KBLCOMを1995年に買収しています。


3つ目に、インターネットの進出を目指して、AOLと2000年に「世紀の大合併」しています。


4つ目が、映画やTVのコンテンツホールダーとして集中するために、これまでM&Aしてきた企業を次々にSpin-offや売却をしていきます。

2003年に音楽レーベルのWarner Music Division、2009年にISP及びポータルのAOL、2008年にCATVのTime Warner Cable、2014年に出版社のTIMEなど切り離しており、この一連の流れは身売りのための身辺整理だったのかな?と今からすると思います。

とこれまで、Time WarnerのM&Aの歴史を見てきましたが、他のアメリカのメディアコングロマリットが、Time Warnerのように選択と集中をしているかと言われると、ちょっと微妙です。

ComcastやLiberty Mediaのようにコンテンツから配信まで全てを握り数兆円単位のM&Aによって更に肥大化しようとしているのもいれば、旧AT&Tのように全てを握りながら全てを分割したもの(最近は衛星放送のDirecTVやコンテンツホールダーのTime Warnerを買収することで肥大化中)、News Cororationのように映画テレビ事業を分離する企業など様々で、面白いところです。


さらに、ここにきてメディアコングロマリットにとって番狂わせ的なプレーヤーが続々と生まれつつあります。

その代表格が、Netflix・Amazon・Appleなどのこれまで配信だけをしてきた配信サイドであり、これら配信サイドが成長してきたことで、自らコンテンツまで手がけようとしたり、CATVを契約していた人が解約して乗り換える「コードカッター」が増加してきています。

ただ、コンテンツホールダーのThe Walt Disneyが配信サイドのNetflixからの撤退し自ら配信サイドまで展開しようとしたり、配信サイドのAT&TにコンテンツホールダーであるTime Warnerが買収されたり、どんどんカオスになっています。

今後、配信サイドもコンテンツホールダーもどうなるのか。

そして日本ではどうなるのか?

今世紀最大級に楽しみです。